今どき引く手あまた! 「経営人材」の転職事情

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 高島屋からギフト関連のベンチャー企業GIFCOM(ギフコム)に転職した坂井伸一郎さん(38)も、そのマネジメント能力を武器に転職した1人だ。

1993年に高島屋に入社した坂井さんは玉川店を経て、96年に食料品部門の担当者として開店直前の新宿店に配属された。実は、大胆にも入社面接時に「入社したら新しい新宿店で働かせてほしい」と面接官に言い放った。その希望が、結果として現実のものとなったのだ。その後、社内公募を利用してインターネット関連の事業開発部門に異動。そこで他業種の人脈が広がり、百貨店業界の外に目が向くきっかけとなった。

再び新宿店に今度は店舗経営スタッフとして呼び戻され、さらに本社部門で長期経営計画の策定に携わるなど、着実にキャリアを積んでいった坂井さん。だが、いつしか高島屋の社員としての自分の将来に疑問を持つようになる。

「店舗経営スタッフとして新宿店で働いた3年間、自分なりに一生懸命にやったが、思うように店舗業績が上がらなかった。その挫折感を味わう一方で、会社の自分に対する評価はそれほど悪くはなかった。そのギャップに戸惑った」

会社は自分の何を評価しているのだろうか。自分を活かす場は、本当に百貨店業界なのだろうか。自問自答するうちに、ネット事業にかかわっていたときの記憶がよみがえってきた。「外で勝負してみよう」。GIFCOMに転職したのは06年5月、35歳のときだった。

入社時は、社員は自分を含めて2人だけ。経営企画から経理、人事・採用まで何でもやった。翌07年には取締役就任。今年9月にはオーナー社長と並んで代表権を持った。

「高島屋時代で学んだことは、現在の仕事にも役に立っている。特に、社長の下に集められ、長期経営計画を策定したときの経験は大きい。現場から離れて会社の将来を徹底的に議論する中で、経営の視点が身についた」

株式公開に向けて会社経営に奔走する日々を送る現在。「自分の決断が会社の業績に直結する。大変なポジションだが、やりがいがある」と、坂井さんは笑顔を見せる。

前述の井上氏は、経営人材として成功するキャリアの典型的なパターンを、こう解説する。「新卒で大企業に入り、配属先で与えられた仕事をしっかりとこなして業績を上げる。30歳前後で、社内でステップアップするか、MBA取得を目指すか、あるいは転職するかを選択。転職先の規模は問わないが、営業でも経営企画でも会社の中核として働く。こうしたキャリアを積み重ねることでマネジメント能力が身につく」。

坂井さんの場合も、高島屋という大企業で着実にステップアップし、マネジメント能力を身につけ、現在はベンチャー企業で経営トップに立っている。これも一つの典型的パターンといえるだろう。


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