デジタル社会で生き残る銀行の条件とは何か HSBCの統括責任者ルイス・サン氏に聞く

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保険加入も、昔は保険代理店に行き、そこで説明を聞いたうえで契約書に必要事項を記入し、保険契約が成立したわけですが、デジタル化によってこの手の手間が省けたため、従来は手間とコストが見合わないという理由で組成できなかったタイプの保険が登場してきました。たとえば、飛行機が遅延したことで生じた損失をカバーする保険などは、保険料が1000円程度と安いため、以前のように人の手を介した契約手続きをしていては、とても採算が合いません。それがデジタル化、省力化によって実現可能になったのです。

これからの消費の中心になるといわれる「ミレニアル世代」は、デジタルエコノミーの恩恵をフルに受けてきた人たちですから、買い物ひとつをするにしても、店頭まで足を運ぶ前に、スマートフォンで購入するのが普通です。なので、金融もそこにしっかり対応していく必要があります。

デジタルエコノミー社会における金融の根幹とは?

デジタルイノベーションは、HSBCグループにとって大きなテーマです。それを通じて、デジタルエコノミー社会に必要とされる、新しい金融サービスを創出していきます。

金融業界は極めて保守的ですが、デジタルエコノミー社会においては、積極的に変化を受け入れなければなりません。社会やマーケット全体がものすごいスピードで変化していきますから、それを受け入れないと、時代から取り残されてしまいます。逆に、積極的に変化を受け入れることによって、イノベーションが起こり、顧客に対して、より良い付加価値やサービスが提供できるようになります。

また、ある技術が顧客の利便性の向上につながるものであれば、それを顧客が実際に使えるものにしなければなりません。

直近の事例だと、決済アプリのオムニチャネル化があります。中国には、ユニオンペイやアリペイなど、日々、巨大な金額が動く決済アプリがありますが、それ以外にも大小300前後の決済アプリがあります。しかし以前は、仮に複数の決済アプリを利用しようと思ったら、それぞれと契約しなければなりませんでした。

しかし、決済アプリをオムニチャネルでまとめれば、いずれかひとつの決済アプリと契約するだけで、ほかの決済アプリも使えるようになります。もちろん、私たちとしてはHSBCが提供している決済アプリを使ってもらいたいのですが、オムニチャネルによって顧客の利便性が向上するならば、それはサービスとして提供するべきだと考えています。

このように、私たちは、これからもサービスをより向上させるべく、多くのフィンテック企業と協業しながら経験値を高め、デジタルエコノミー社会に必要とされる金融サービスを提供していきますが、その際に大事なことがひとつあります。

それは、金融機関にとって競争力の中核であるセキュリティや安全性が、サービスの提供において重要なカギを握るということです。金融機関はすべてのサービスにおいて、サイバーセキュリティを強化し、顧客がいつでも安心して取引できるプラットフォームを構築しなければなりません。これが、デジタルエコノミー社会における金融の根幹を形づくっていくのです。

鈴木 雅光 JOYnt 代表、金融ジャーナリスト

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すずき・まさみつ / Masamitsu Suzuki

1989年岡三証券入社後、公社債新聞社に転じ、投信業界を中心に取材。2004年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作に関わる。著書に『投資信託の不都合な真実』、『「金利」がわかると経済の動きが読めてくる!』等。

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