北朝鮮が「終戦宣言」の合意にこだわる理由 金正恩は国内保守勢力に悩まされている?

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9月下旬には朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」が、「アメリカは自らが公約した終戦宣言の宣布をはじめ信頼醸成の意志は示さず、先核放棄(核廃棄を優先する)の主張に固執している」とアメリカへの批判を展開した。しかし、ドナルド・トランプ大統領を直接、批判することを巧みに避けて、「アメリカの保守勢力はシンガポール首脳会談の成果をおとしめ、トランプ行政府を守勢に追い込もうとしている」と、米朝協議の進展を歓迎しない保守勢力に矛先を向けた。

北朝鮮が「終戦宣言」にこだわりだした理由について、「終戦宣言」に否定的なアメリカの保守派、あるいは日本の外務省や専門家の多くは、自分たちは実質的に何も譲歩しないでアメリカから取れるものを取ってしまうという北朝鮮の伝統的外交手法の表れとみている。

「終戦宣言」に合意すれば、次は「平和協定」、さらに米朝国交正常化を求めてくる。その過程で国連軍司令部解体や在韓米軍の撤退、あるいは国連制裁の緩和や解除も要求してくる。一方で自分たちの核兵器やミサイルの廃棄は、一部施設の破壊などわずかな対応を見せるだけで本質的な対応はしない――というのが彼らの見立てである。

ゆえにアメリカが「終戦宣言」に応じることは、アメリカにも日本にも何のメリットもないというのだ。そしてトランプ大統領と文在寅大統領が「終戦宣言」に積極的な姿勢を見せていることを不安視している。

北朝鮮専門家の見方は異なる

過去の北朝鮮の対応を振り返ると、こうした分析が出てくるのは当然だろう。しかし、アメリカは過去の失敗に懲りて、核・ミサイルの廃棄に向けた北朝鮮の具体的な行動がないかぎり、見返りを与えるつもりはなさそうだ。まして国連軍司令部解体や在韓米軍の撤退などは、北朝鮮との2国間の話し合いだけで決められるものではない。宣言に同意すると、その後は北朝鮮ペースで物事が進みかねないという保守派の懸念は、いささか大げさすぎるように思える。

一方、北朝鮮専門家などから出ている見方は正反対である。

金正恩委員長は本気で北朝鮮経済を発展させたいと考えており、そのためにはアメリカとの関係改善だけでなく、国連制裁の解除、あるいは多くの国との貿易促進や投資の呼び込みなどを必要としている。

それを実現するには核・ミサイル問題の解決は避けて通れない。父親の金正日総書記がやったような主要国をだまし続けながらのある種の瀬戸際政策は、根本的な解決にはならないから、大胆な路線転換が不可欠だ。4月の党中央委員会総会でこれまでの「核開発と経済発展の並進路線」を修正し、経済発展を重視するという方針を打ち出したのも、そうした考えの表れとみている。

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