選択迫られたリーマン社員、仁義なき人材争奪の修羅場

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リーマン日本の社員にヘッドハンティング会社からの連絡が入り始めたのは、その日の朝からだ。リーマン元社員は「16日朝に出勤してきたら、複数のヘッドハンティング会社から、競合他社への転職を勧誘するメールが届いていた」と振り返る。優秀な人材を欲するライバル各社がヘッドハンターを動かしたのだ。

通常、ヘッドハンターは、転職を勧誘する対象者に接触するときは慎重なうえにも慎重を期する。「本人にいきなり電話してもまず会えない。事前に手紙を送ったり、知人を頼って打診したりと試行錯誤する」と、あるヘッドハンターは話す。

ところが、今回のように企業が破綻してしまった後となれば、話は別だ。「ヘッドハンターは、会社に堂々と電話をかけてきた。こちらの内情を探る話から、具体的に競合他社への転職を勧める話までさまざまだった」(リーマン元社員)という。まさに何でもありの修羅場だった。

破綻以前から転職の準備を進めていた者、破綻後に舞い込んだ転職勧奨に即座に応じた者。事情はそれぞれだが、リーマンを去る者は、破綻から日を追うごとに増えていった。

一方、ヘッドハンティングの声がかからなかった者も含め、リーマンに残る社員はスポンサー企業の出現に期待を寄せていた。米国本社の破綻直後、米国の投資銀行部門は、英国銀行大手のバークレイズが買収を発表。「日本を含むアジア部門の買収についても、バークレイズはリーマンと交渉している」との話が、報道で伝わっていた。

待望のスポンサーは、意外なところから現れた。日本時間の9月22日深夜、野村HDがリーマンの日本を含むアジア太平洋地域の約3000人を雇い入れると発表したのだ。

これについて、リーマン社員の受け止め方はさまざまだった。

「この情勢では、ヘッジファンドやバイサイド(投信運用会社や投資顧問など)に移るのも難しい。ひとまず失業を避けられてよかった」

「野村は日本最大の証券会社。明らかに野村のほうが戦力で勝る分野の部門にいる私は、ガッカリ」

「リーマンには、そもそも野村から転職してきた。今さらどの面下げて戻れるというのか……」

一方、野村も“リーマン穫り”を、周到に準備していたワケでもなかった。今回の交渉は、今年4月に就任したばかりの渡部賢一社長、柴田副社長の2人が主導して一気に進めた。「リーマンの件は役員ですら報道で初めて知った者が大半」(野村幹部)。そのためか、人材受け入れ決定後、9月末までリーマン日本法人の一般社員には、野村からの公式な接触がほとんどなかったという。


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