全米大ヒットの新作『ウォーリー』で”リアルアニメ”を極めたディズニー、次は手描きの頂点へ

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 ひるがえって、日本のCGアニメの現状はどうか。宮崎アニメに代表されるように手描きが主流の日本の長編アニメ業界だが、フルCGアニメも作られている。その嚆矢は制作費150億円を投入した01年の『ファイナルファンタジー』。生身の人間と見間違えるほどリアルなキャラクター造形が話題となったが、世界での興行収入は8500万ドルにとどまり、興行的には失敗。制作したスクウェアは巨額の損失を計上し、エニックスとの合併に追い込まれた。

だが、世界中のクリエーターの日本のCGアニメへの視線は熱い。たとえば昨年秋公開の『エクスマキナ』には、現在大ヒット公開中の映画『レッドクリフ』の監督ジョン・ウーとプロデューサーのテレンス・チャンという2人のヒットメーカーが制作に参加した。チャン氏は、「日本でCGアニメを作りたいという話は以前からジョン・ウーとしていた」という。何度も来日しては、2人でアニメイベントを見て回り、多くの知己を得た。そこから生まれた企画が『エクスマキナ』だったのだ。

主人公が横っ飛びしながら“二挺拳銃”を撃ちまくり、爆発音と同時に間一髪で窓からジャンプする。正真正銘のジョン・ウー・アクションがCGで再現された。CGアニメの登場人物も監督の「演技指導」を受ける。ピクサーとは一味違った実写のような演出である。

日本のお家芸である手描きアニメでも、今やCG抜きには成り立たない。宮崎駿監督は「僕らもピクサー並みにコンピュータを使っている」と『ハウルの動く城』公開時に語っている。逆に『崖の上のポニョ』では「全編CGに頼らない手描き」が話題になったくらいだ。

世界的に著名な『千年女優』を代表作に持つ今敏監督の作風は実写と見間違うほど精密な手描き映像。しかし今監督は、その画面を作り出すためにCGを活用している。「CGによって、自分の意図に近い画面が容易につくれるようになった」と都内で開催されたトークショーで効用を語った。CGを使わなければ、原画マンや背景マンは何度も描き直しが必要だったはずだ。

ただ、このように監督のこだわりのためにCGを使うのはぜいたくな例。劇場用アニメに比べ、制作日数やコスト面で制約の多いテレビアニメでは、省力化の手段としてCGを多用している。歩行者や自動車の走行といった手描きアニメの基本の動きがどんどんCGに置き換えられているのだ。手描きシーンと比べ、明らかにアンバランスに見えるがお構いなし。こうした表現上の「手抜き」が次世代のアニメーター育成の障害となっているのは間違いない。

さて、04年に手描きと決別したディズニーを一変させる事態が起こった。ディズニーのピクサー買収を契機に、ラセター氏がディズニースタジオのクリエーティブ総責任者に“昇格”した。宮崎アニメの大ファンでも知られるラセター氏は、なんと手描きアニメの復活を宣言。解雇したスタッフを再雇用し、09年には5年ぶりとなる手描きアニメの新作を公開する予定だ。CG全盛の時代に打って出る手描きアニメが、映像表現も演出も従来よりも進化していることは想像に難くない。

テレンス・チャン氏の下でも、新作アニメの企画が進行中だ。「『レッドクリフ』に出てくる女性を主人公にしたアニメを制作する。CGと手描きのバランスを工夫して新しい映像を作りたい。まるで水墨画が動いているかのような」。世界がCGを超える手描きアニメを生み出そうと躍起になる中、日本のアニメ産業はCGによる安易な手抜きを廃し、CG時代にふさわしい優れた“手描き”アニメを生む努力を惜しんではならない。

(大坂直樹 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

ジム・モリス Jim Morris
映画プロデューサー。ILMの視覚効果プロデューサーとして『ジュラシック・パーク』『スター・ウォーズ』などのシリーズを担当。2005年にピクサーに参加。

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