安倍政権は増税ショックを緩和せよ 日本経済再生のカギは「法人税減税」(上)

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消費税増税の先送りは、アベノミクスの第3の矢(成長戦略)にも甚大な打撃を与える。

もともと、安倍総理は今度の国会を「成長戦略国会」にしたいと考えてきた。しかし、消費税増税を先送り(引き上げ幅の変更を含む)する場合には、新たな法案を国会で可決する必要があるので、本国会は「消費税国会」となってしまう。この結果、「アベノミクス」の最大のカギである、第3の矢を迅速に放つことができなくなってしまうのである。

5兆円規模の経済対策を行なう理由

このように考えると、今回政府が採用した「予定どおり消費税率を3%引き上げたうえで、5兆円程度の経済対策を行なう」という政策は、非常に賢明なやり方だ。

この施策は、実質的に消費税率を1%引き上げるのと同じ意味をもつ。政府が経済対策に充てる5兆円は、消費税率2%程度に相当するからである。

国民のあいだからは、「それなら消費税率の引き上げ幅を1%に縮小すればよかったではないか」との批判も耳にする。

しかし、消費税率の引き上げ幅を1%に縮小する場合、増税先送りのケースと同様、新たな法案を国会で可決する必要があるので、アベノミクスの第3の矢(成長戦略)にとって大きな障害となる。さらに、1%ずつ消費税率を引き上げると、実務上、(1)造船・リースといった長期契約では複数の税率が同時に走ることになるなど企業の事務負担が重くなる、(2)小刻みな増税が行なわれると消費税引き上げ分を販売価格に転嫁できず「下請けいじめ」が起きる、といったさまざまな問題も生じる。

それでは、現在想定されている5兆円という経済対策の規模は妥当なのだろうか。

大和総研の試算によれば、消費税増税によって、2014年度の実質GDPは5兆円程度減少する。このうち、3兆円は2013年度に発生する「駆け込み需要」の反動によるものなので、増税にともなう実質的な家計の購買力減少などに起因するマイナス部分は2兆円と試算される。

つまり、増税にともなう需要減退を帳消しにするという観点からは、経済対策の規模として2兆~5兆円程度のレンジが設定されることになる。

さらに、経済対策が追加的な国債発行を必要とするか否か、という視点も重要だ。政府は12月の時点で追加的な国債発行の必要性を検討する方針であるが、経済対策の上限額である5兆円には、「今年度、(税収の上振れ分などを活用して)国債を追加発行せずに賄える可能性がある最大限の金額」という、もう一つの含意もあるのだ。

上記の2つの視点を踏まえ、政府は、「景気腰折れを防ぐ万全の対策」という意味合いを込めて、5兆円規模の経済対策を行なう方針を固めたと見られる。

経済対策のメニューについては、(1)「駆け込み需要」を緩和する激変緩和措置(「すまい給付金」、住宅ローン減税、将来的な自動車取得税の廃止等)、(2)低所得者に対する給付金、(3)投資減税や法人税減税、(4)賃金を引き上げた企業への減税、(5)公共投資、などがバランスよく提案されている。「国民の生命・財産の保護」という美名の下に、不要不急の公共投資が行なわれることは厳に避けるべきであるが、経済への即効性などを考えると、「費用対効果」を見極めたうえで、真に必要な公共投資は粛々と実行する必要があるだろう。

5兆円規模の経済対策の効果もあり、日本経済の腰折れは回避される見通しである。筆者は、わが国の実質GDP成長率について、2013年度がプラス3.0%、2014年度がプラス1.2%と予想している。

前回増税が実施された1997年当時と比べ、日本経済の足取りは非常にしっかりとしている。とりわけ、公共投資や個人消費・住宅投資などの国内需要は堅調な推移が見込まれる。ただし、将来的な中国など海外経済の下振れリスクについては慎重に見極める必要があるだろう。(『Voice』2013年12月号より)

(後編へ続く)

熊谷 亮丸 大和総研 チーフエコノミスト
くまがい みつまる

1966年、東京都生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。2010年より現職。各種アナリストランキングで合計7回、1位を獲得。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などのコメンテーターとして活躍中。著書は、『パッシング・チャイナ』(講談社)、『消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)など。

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