憲法9条「戦争放棄条項」は、誰が作ったのか マッカーサー説と幣原喜重郎説を検証する

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憲法9条の「戦争放棄条項」を(写真:TTwings / PIXTA)

自民党総裁選で3選が決まり、安倍晋三首相は念願の憲法改正によりいっそう強い意欲を見せている。まだ、改正案の具体的な内容は不明だが、日本国憲法第九条の「戦争放棄」条項が大きな論点の一つになる可能性は高い。

はたして再び「護憲派」と「改憲派」との間で激しい論争が繰り広げられることになるのだろうか。われわれはこれまで、この問題をめぐる終わることのないイデオロギー的な衝突を、繰り返し目にしてきた。

他方で、もしも安倍政権で憲法改正への動きが見られ、国民投票が行われるのであれば、われわれ一人一人がこの問題についての立場を表明する機会が生じる。そのようなときが来ることも考慮して、そもそも戦後初期の時代に戦争放棄条項はどのような人物により、どのような意図で提案されたのかを正確に知っておく必要があるのではないか。

新たに刊行した『戦後史の解放Ⅱ 自主独立とは何か 前編:敗戦から日本国憲法制定まで』(新潮選書)のなかで私は、戦後間もない時代に、新しい憲法に「戦争放棄」条項が盛り込まれることになった過程を描いている。すでにこの問題については膨大な研究の蓄積があるが、拙著の中ではそれらを従来よりも広い国際的な視野のなかに位置づけており、ここでその重要な論点を確認しておきたい。

マッカーサーの証言は信用できるか

従来は一般的には、この憲法九条の「戦争放棄」条項は幣原喜重郎首相が発案したと論じられてきた。その根拠になったのは『マッカーサー大戦回顧録』のなかの記述である。1946年1月24日、幣原がマッカーサーの執務室を訪ねた場面について、そこでは以下のように書かれている。

「(幣原)首相はそこで、新憲法を書上げる際にいわゆる『戦争放棄』条項を含め、その条項では同時に日本は軍事機構を一切もたないことをきめたい、と提案した。(中略)首相はさらに、日本は貧しい国で軍備に金を注ぎ込むような余裕はもともとないのだから、日本に残されている資源は何によらずあげて経済再建に当てるべきだ、とつけ加えた。私は腰が抜けるほどおどろいた。長い年月の経験で、私は人を驚かせたり、異常に興奮させたりする事柄にはほとんど不感症になっていたが、この時ばかりは息もとまらんばかりだった。戦争を国際間の紛争解決には時代遅れの手段として廃止することは、私が長年熱情を傾けてきた夢だった」(マッカーサー『マッカーサー大戦回顧録』<中公文庫、2014年>456-457ページ)

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