傷病手当金で生きる26歳メンヘラ女性の苦悩 母親の「死」で家庭は完全崩壊してしまった

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「去年7月に『会社を休みたい!』っていろんな人に話していたら、先輩から傷病手当金の制度を教えてもらった。それはいいって、小さなメンタルクリニックに行った。うつ病って診断されて、傷病手当金はもらえることになった。で、休職。もう働くことに疲れちゃった。通院以外は家で寝るだけの生活になって、そんなときに主治医の先生から食事に誘われた。60歳超えている医院長。で、誘われてホテルに行ってやっちゃった」

 “やっちゃった”とは言葉どおり、誘われて肉体関係になることだ。主治医の話になってから表情は紅潮し、「実は先生を訴えたいの!」としゃべりの勢いが増した。主治医に強姦されたのか?と聞くと、大きくクビをふる。和姦だったようだ。

「私、うつ病患者ですよ。精神科の医師は患者をナンパするのは非常識だって、知り合いが言っていました。頭がおかしくて判断能力がないとわかっているんだから、誘ってやっちゃうとかダメだって。先生が結婚していることも後から知ったし、知っていたら断ってたから。電話しても電話出ないし、逃げられた。本当に不誠実。だから訴えようと思って、法テラスに相談中です」

要するに主治医の初老の医師にナンパされて、心を許して肉体関係になった。彼女は主治医に好意を持った。今年3月に主治医に転院を勧められて、医院を変えている。それからも何度か逢引きを重ねて、既婚者と判明。最終的に携帯を着信拒否されて、フラれたという事情のようだ。

さすがに判断能力のない精神疾患の患者をナンパするのは非常識だと思うが、フラれて激怒している彼女に共感はできない。聞き流すしかない。

「先生に勧められて3月から歌舞伎町のセクシーパブで働いてる。働くのは疲れちゃうから出勤するのは本当にたまにだけど、先生がやれって。最初は同伴とかしてくれたのに電話に出なくなった」

彼女が自立できる道は?

情もあっただろう主治医は、家で寝ているだけの生活ではなく、単価の高い風俗で働くことを勧めたようだ。一般的な会社勤めは難しそうだが、彼女は年齢やスペック的には風俗嬢としてはそれなりに稼げるはずで、おそらく主治医は傷病手当の期限が切れた後を見越して、自立できるようにそのアドバイスしたのだろうと思った。

水商売や風俗、パパ活などは、精神疾患や低賃金の女性たちのセーフティネットであり、富の再分配の場となっている。筆者は彼女はこれからどうするのかと思いながら支離滅裂な話を聞いていたが、水商売や風俗をしながら療養するのがベストじゃないかと思っていた。主治医も同じ意見だったと聞き、「なるほどな」と思った。

そして主治医への愚痴というか、怒りに満ちた告発は、それから延々1時間以上も続いた。取材に同席していた女性編集者は、ノートパソコンを出して別の仕事を始めてしまった。主治医への怒りの言葉は、本当にずっと続いた。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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