検証 格差拡大社会 上村敏之・田中宏樹編 ~基本的な知識を整理し新しい視点を提供する

検証 格差拡大社会 上村敏之・田中宏樹編 ~基本的な知識を整理し新しい視点を提供する

評者 大和総研チーフエコノミスト 原田 泰

 格差は流行の大テーマとなって、すでにさまざまな「格差本」が出版されている。しかし、本書は、格差が政治の争点になった理由、地方財政格差は拡大していないという論考、地域間格差の国際比較、教育格差についてのイギリスの取り組みなど、これまでにない議論がある。また、これまでの議論の整理も見事なので、読者が自分の考えをまとめるのにも有益であろう。論文集なので、章により視点の明確さの違いは避けられないが、多くの論文は刺激的である。

地域の家計の「働きぶり、暮らしぶり、稼ぎぶり」によって、育児支援の効果が異なるという指摘は、画一的な対策が語られる中にあって貴重である。

地方税収と地方交付税を合わせた地方の財政収入格差はほとんど拡大していない。格差是正には、交付税の増額を求めることになるが、これには中央集権思想が潜んでいると指摘する。

日本の地域間格差は、OECDの中でオランダに次いで2番目に小さい。また、地域間格差の大きい国ほど成長率が高い傾向があるという。むしろ賃金の低さを利用して民間投資を招く発展戦略もあるという。

親の所得が教育格差を生むことは、すでにさまざまに指摘されているが、それに対するイギリスでの対応が紹介されている。イギリスでは、低所得者の多い学校に重点的に予算が配分され、その予算は学校が自らの裁量で使うことができる。イギリスでは、学校の成績競争がなされているが、それは、学校に教育の質を高める手段が与えられたうえでの競争である。学力テストで成績を調べるだけで、格差をどのように縮小するか考えない日本と、考えるイギリスの違いに暗澹(あんたん)とする。

格差についての基本的な知識を整理し、新しい視点を提供する貴重な本だ。

うえむら・としゆき
関西学院大学経済学部准教授。専門は財政学。1972年生まれ。東洋大学経済学部専任講師、同助教授、同准教授を経る。

たなか・ひろき
同志社大学政策学部教授。専門は公共経済学、政策評価論。1967年生まれ。PHP総合研究所主任研究員などを経る。

日本経済新聞出版社 1890円 237ページ

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