マツダの自動ブレーキ車事故から得るべき教訓 操作ミス?性能に欠陥?体験試乗会で2人重軽傷

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マツダでは、自社の車に搭載した自動ブレーキが動作せずに事故につながった事例は把握していない、と発表している。ただ、それがシステムに欠陥がないということを証明しているわけではない。いずれにせよ、警察による詳細な調査結果を待つ必要がある。

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近赤外線センサーで前方の車両を感知する

原因はなんであれ、自動ブレーキの体験試乗会で重傷事故が発生したという影響は小さくない。自動ブレーキだけでなくエアバッグやブレーキロック防止システム(ABS)など、どんな安全装置あれ、いかなる場合でも動作し被害をなくせるわけではない。条件によっては作動しないこともある。

記者自身、他のメーカーの市販車による歩行者衝突回避ブレーキの体験会で、衝突回避速度以下での走行にもかかわらず、ダミー人形に衝突した経験がある。別のメーカーの車両衝突回避ブレーキでも、ダミー車両にぶつかったことがある。ただし、いずれも、ブレーキが動作せずに激突したわけではなく、被害軽減効果は感じられた。

消費者に過度な期待を醸成

そもそもシステムの性能には常に限界があり、絶対の安全はない。にもかかわらず、昨今は、あたかもどんな衝突でも防げるかのような宣伝が行われ、消費者に過度の期待を抱かせてきた感がある。今回の事故は、それを裏切るような印象を与えており、安全技術への信頼感を損ねかねない。

かつて国土交通省は衝突前に完全に停止する自動ブレーキ機能について、運転の注意力が損なわれるとして導入に難色を示してきた。また万が一、衝突事故が起こった場合、メーカーと運転者の責任範囲をどうするかという難題を避ける意図もあった。

しかし、こうした懸念から日本で自動ブレーキなど先進的な安全技術の導入に躊躇するうちに、欧州メーカーを中心として開発・市場導入が進み、この分野では日本メーカーの立ち遅れが目立つようになった。やっとキャッチアップが始まったところでの”冷や水”となり、またブレーキが掛かってしまえば、将来的な影響は小さくない。

日本で起こる自動車事故の9割は、脇見による追突など運転者の不注意に原因があるとされる。自動ブレーキはこうした事故の低減に最も効果がある。衝突事故を完全に防げるといった過度な期待感をあおったうえで、失望を招いて普及を遅らせては元も子もない。原因究明はもちろんのこと、マツダのみならず、自動車業界全体での真摯な取り組みが必要だ。

丸山 尚文 東洋経済 記者

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まるやま たかふみ / Takafumi Maruyama

個人向け株式投資雑誌『会社四季報プロ500』編集長。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長、通信、自動車業界担当などを経て現職

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