保険の最新商品を徹底分析、いいとこどり商品も登場

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トラブル回避には契約者の意識も大事に

これ以外にも、ピーシーエー生命の保障を入院と手術に絞ることにより、リーズナブルな保険料を実現した「PCAメディスマート」(7月10日発売)や、日本興亜生命の公的医療保険や先進医療の対象となるほとんどの手術・放射線治療を手術給付金の対象にし「ホッとメディカル」(8月2日発売)など、はっきりとした特徴を持つことで消費者への訴求力を高めた、わかりやすい終身医療保険が、相次いで登場してきている。

ただ、いくらわかりやすくなったとはいっても、保険会社側の努力だけでは限界がある。契約者もしっかりと保障内容について理解する必要がある。保険金の不払い等のトラブルを防ぐためには、契約者の自覚も大切だ。

また、病気やケガの際に保険金が給付されることを考えれば、契約者本人だけが知っていても心もとない。本人だけでなく、配偶者や家族も保険契約の存在と内容を理解ておくべきだ。さらにいえば、終身医療保険に加入しさえすれば、それで一生安心ともいえない。将来の公的医療制度の変更やインフレによっては、加入時にも適正と思われた保障内容でも不十分となる可能性があるからだ。

加入している保険の内容について、パートナーや家族と一緒に定期的に確認する機会を持つことが、契約者にとって重要だ。生保各社も、契約内容の確認等で、そうした習慣の定着を後押しする努力を行っている。

自動車保険の商品改善も,体系簡素化と特約削減が柱

医療保険と同様に、保険金不払いが多発した自動車保険をてみよう。ここでも大きな潮流は、商品体系の簡素化と特約削減だ。

最大手の東京海上日動では、まず3種類ある自動車保険を個人向けと法人向けの2種類に統合。特約についても、現行の128種類から75種類へと4割以上も削減するという大ナタを振るった。特約数の削減では、損保ジャパンも自動車保険全体の特約数は、改訂前の215から113へと大きく減らしている。

自動車保険も、多数の特約が付加されて販売されていたため、契約者は保険金が支払われることに気がつかないケースが多かった。たとえば、自動車事故でけがをさせた相手へ手みやげ代を補償する「臨時費用特約」は、貯蓄では対応できない金額の損害の賠償と補償に備えるために自動車保険に入るという消費者の感覚から大きく乖離していたことが、不払いが多かった原因の一つだ。

「キャンセル費用特約」についても、旅行のキャンセル料発生が、そもそも自動車保険で備えておくべきリスクだと思わない人が多かった。ゴルフでホールインワンをしたときに保険金を支払う特約など、自動車保険と直接関係がないものと併せて、削減対象となったのは当然ともいえる。

こうした大手各社の商品体系の簡素化と特約削減によってインターネットを主たる販売チャネルとする直販(ダイレクト)系の商品との差異が縮小してきている。ソニー損保をはじめとするダイレクト系では、低価格がセールスポイントということもあって、従来から比較的シンプルな商品構成になっていたからだ。ネット金融事業のノウハウを持つSBIグループと、提携する修理工場網などを持つあいおい損保がSBI損保を設立。今年1月から自動車保険の提供を開始するなど、代理店を通した契約が圧倒的に多い自動車保険の分野でも、新しい動きが出てきている。

一方、特約の削減以外でも、自動車保険自体をかりやすいものにしようとする努力がみられる。

ニッセイ同和損保の「運転者家族限定特約」の「子どもワイド型」への拡大も一例だ。従来、同社の「運転者家族限定特約」における「子ども」には、別居の未婚の子は含まれたが、別居の既婚の子やその配偶者は含まれなかった。今回、枠を拡大し、結婚した子どもとその配偶者も、家族限定特約における「子ども」に含まれることになった。損害保険業界でいう「子ども」を、世間で一般に使う子どもと同じ内容にしたことにより、わかりやすい内容になった。

また、損保ジャパンでは、運転者年齢条件特の見直し(対象商品:ONE‐Step、SUP)を行い、年齢条件の対象範囲を、記名被保険者・その配偶者・これらの人の同居の親族が運転している場合のみとした。このため、運転者年齢条件の設定にあたっては、記名被保険者や同居家族で車を運転する人のうち、いちばん若い人の年齢にあわせて設定すればよくなった。これにより、若い友人などが運転している間に起こった事故については、設定された年齢条件に当てはまらない場合でも補償の対象となるようになった。同様の改定の動きは、他の大手損保各社にもみられる。

最後に、自動車保険商品改良例として、三井住友海上の新旧商品を比べてみよう。始期日が今年6月末までの「MOST・家庭用」と、7月からの「GK くるまの保険・家庭用」だ。

旧商品のパンフレットでは「どう選ぶ、どう組み立てる」と自由度の高さが協調されている。しかし、特約の数が多いうえに、重要度もそれぞれ異なるため、一般人が特約を選んで組み立てるのは困難だ。また、事故地からの帰宅の際にグリーン車が利用できるなどのサービスが付加された「MOSTファーストクラス」というワンランク上質をアピールしたパッケージが用意されるなど、一見して混沌した複雑な感じを受ける。

一方、新しい「GK くるまの保険・家庭用」のほうは、「基本」「標準」「充実」の三つのプランが用意されているだけだ。各プランの比較もしやすくなっている。そのうえで、契約者の中には必要と考える人もいると思われる特約を10に絞り、「MYオプション」として提示されている。

旧商品がすべての料理をアラカルトで選ばせるイメージとすれば、新商品は、単品料理の追加も可能なコース料理を選択する感じだ。格段にわかりやすくなっている。

自動車保険については、契約者が「前年と同じ内容で」で済ませてまい、更新時にほとんど内容を確認しない傾向がある。そうした契約者側の姿勢にも問題があるわけだが、それをいいことにしていた面も、損保各社や代理店になかったとはいえない。

生保、損保にかぎらず、商品設計以外にも各社が取り組むべき課題は多い。たとえば契約者側への働きかけや、契約内容に対して関心の低い消費者にもわかりやすい説明方法の研究、また、保険用語やパンフレット等の資料の平明さの追求も必要だろう。そして当然ながら、営業職員や代理店を含めた従業員の意識変革が進まないことには、こうした一連の商品改善も顧客に対す訴求力には結びつかない。今後も各社の地道な取り組みが求められる。

 

 

(生保・損保特集編集部)

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