海運バブル大崩壊! 投機マネー急減で未曾有の市況下落

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世界的な海運指標、バルチック海運指数(バルチック・ドライ・インデックス。以下、BDI)が一向に下げ止まらない。

1985年の年平均のスポット運賃を1000とするBDIは、鉄鉱石や石炭、穀物を運ぶ大小さまざまのドライバルク船、いわゆるバラ積み船の運賃総合指数だ。中国の資源“爆食”を背景に03年ころから暴騰。5月20日には史上最高値の1万1793をつけた。しかし、それから半年も経たない11月5日のBDIはたったの826。最高値から93%マイナス、過去最低記録を更新する勢いで暴落中だ。

主犯格はヴァーレ、船転がし、投資銀行

今回の海運市況崩落の引き金を引いたのはブラジルのヴァーレにほかならない。世界最大の鉄鉱石採掘会社であるヴァーレは、中国と65%の鉄鉱石値上げで合意済みだったが、9月に12%の追加値上げを中国の鉄鋼メーカー大手、宝鋼集団に申し出た。異例の期中値上げに対し、中国は30%の値下げ要求を逆にぶつける。もともと2カ月分の粗鋼在庫がダブついていたうえに、世界的な景気後退を受けて、首都鋼鉄集団など4社が2割の協調減産を決定するなど、鉄鋼需要が落ち着いてきたからだ。ブラジルと中国は互いに譲らず、交渉が難航。ブラジルから中国への鉄鉱石輸送がストップした。

この影響をもろに受けたのは、ケープサイズと呼ばれる最も大きいクラスのバラ積み船だ。11月5日のケープサイズのスポット運賃は1日当たり5492ドル。ピークの20万ドルから実に97%強も下落した。

ケープサイズの採算ラインは「1日当たり2万ドル。最近竣工した新造船は鉄鋼価格や海運市況の高騰で3~4万ドルにハネ上がっている」(大手海運幹部)。2万ドル割れの運賃は海運全社にとって赤字運賃であるほか、5000ドル台のスポット運賃では、運航するよりも係留代を払って港に碇泊していたほうが安上がり。このため日本の海運会社でスポットの契約に応じる会社はほぼ皆無だ。

スポット契約が主体の欧州では、一部の海運会社が赤字覚悟で積み荷を請けている。ほんの一握りの欧州海運会社が応じたスポット運賃が5492ドルという破格運賃の正体だ。

海運市況下落に拍車をかけているのが借りてきた船を又貸しする「リレット」と呼ばれる“船転がし”の行き詰まりだ。借りたときの用船料よりも貸し出す際の用船料のほうが高ければサヤを抜ける。右肩上がりの市況が続いている間は、船はいくらでも転がすことができた。ところが市況が急落すればとたんに逆ザヤとなり、次の貸し先に窮する。タンカーやバラ積み船が主体の太平洋海運は、最近、貸した先から「市況が下落したから、借りた3隻を返す」と期限前解約を通告された。前代未聞の契約不履行だが、運賃相場の急落で今後増えるとみられている。

異業種による先物買いの手仕舞いも、BDI下落に拍車をかけている。

BDI自体は、英バルチック海運取引所が海運会社と荷主をつなぐブローカーに聞き取り調査をし、毎営業日、現地時間の午後1時に発表している“発表指数”にすぎない。一方で、バラ積み船の実需をヘッジするための相対市場である海上運賃先物(FFA)は、BDIを基準に決済される。投資銀行などの投機筋が資源関連としてこのFFAに着目。FFAで運賃先物を売買する一方、リレット等で現物も手掛けることで高収益を追求した。9月のリーマンショック後、投機マネーはFFAやリレットから引き揚げた。

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