非核化よりも南北関係改善に進む韓国の事情 なぜ民族愛を強烈に演出するのか

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冒頭で紹介した文大統領の共同記者会見での言葉にも、その思いがにじみでている。文大統領の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁・延世大名誉特任教授も2018年3月末に早稲田大学で行われた国際シンポジウムで、北朝鮮を「普通の国」として認め、関係を深めていくことを強調していた。さらに、9月7日付の朝鮮日報の記事によると、文特別補佐官は同日、「非核化が重要であるが、非核化にすべてを隷属してしまえば、南北関係もないし、朝鮮半島の平和体制にもならないし、北朝鮮の経済的変化も難しくなりかねない」と述べた。

しかし、アメリカ主導の国連制裁もあり、北朝鮮に露骨な経済支援や協力は進めていくことはできていない。

文大統領は今回、韓国の財閥トップをずらりと引き連れている。経済協力支援というニンジンを金委員長の前にぶら下げ、南北の関係改善、そして、北への経済協力支援のトゲとなっている米朝の非核化交渉を後押ししようとしている。

南北の国内事情

文大統領は今回の訪朝によって支持率の回復につなげたい構えだ。

韓国経済は、8月の失業率が4.2%まで上昇し、リーマンショック以来の8年半ぶりの高水準となった。韓国の世論調査会社リアルメーターが9月17日に発表した調査結果によると、文大統領の支持率は53.1%に陥り、就任後最低を記録した。4月の南北首脳会談後は80%を超える支持率を得ていたことから比べると急落ともいえる。果たして今回の南北首脳会談が狙い通りに文大統領の支持率回復に結びつくかどうか。

一方の金委員長にとっては、今回の南北首脳会談は国内最大級のプロパガンダになっている。映像にうつる北朝鮮メディアのカメラマンの数も非常に多かった。さしたる実績もないまま、若くして北の最高指導者に就任した金委員長にとっては、大群衆が沿道に詰めかける中、文大統領と肩を並べて「民族の和解と交流」を演出することは、自らの権威の箔付けに資するわけだ。

北朝鮮は2017年11月末に「核武力完成」を宣言、その後、従来の核武装と経済建設の「並進路線」から、経済に国家の総力を集中する路線にシフトした。そのためには、国際社会の制裁解除だけでなく、外資誘致と経済支援が不可欠だ。韓国の財閥トップを招き、自国民の目に見せてアピールしていることにもしたたかな計算がうかがえる。

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