カギの暗証番号を忘れた日本の外交 空気を読まない猪木の強さ

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アントニオ猪木による、パキスタンとの外交

猪木:昨年11月にはパキスタンで興行をやりました。最初は国交60周年記念のイベントとしてやろうとしたら、結局、ラホールとぺシャワールの2カ所で興行をやってくれということになりました。ただ、ペシャワールはタリバンの巣窟といわれるところで、「こんなところで興行を行うことは認められない」と日本の外務省が後援を下りてしまいました。でも、「俺は結構だ、そんなの関係ねえ。俺がやるんだ」と言ってやってみたら、大成功で。しかもイベントの前後1週間はテロがいっさい起きなかった。

ムーギー:向こうの人もこんな猪木さんみたいな人、殺しちゃだめだと。

猪木:アントニオ猪木は、向こうではモハメド・フセインという名前ですが、私のような形で平和のメッセージを送れる人間は、たぶん誰もいないと思いますよ。ワシントンポストも一面を抜いて記事にしました。

危ないから行かないのではなくて、逆に危ないからこそわれわれがそこで果たせることがあれば行くべきだと。「最も危ない場所から平和を訴える」のは、イラクの人質の解放やソマリアでも同じことです。それは別に命を粗末にするということではありません。

ムーギー:ちなみにパキスタンに行かれて、成功とおっしゃいましたけど、イベントで観客が楽しんだという話ですよね。具体的にパキスタンとの間に、また何かなさりたい、解決したいことがありますか?

猪木:いろいろあります。体育学校を作りたいとか、猪木アカデミーをつくりたいとか。今回も首相の弟が、ラホールでのイベント開催のために一生懸命やってくれたのです。パキンスタンは大統領より首相のほうに力があるので、首相のサポートは力強い。たとえば、パキスタンを通じたイラク外交とか、中国外交というのも考えられます。

“誰もできないことをする”燃える闘魂の源流とは?

ムーギー:ここまでの話をまとめると、以下のような感じでよろしいでしょうか。

猪木さんは相手の本質を見抜きながら、かつ心を許しあうような信頼関係をぱっとつくる才能がおありだと。今までいろんな国の首脳と会い場数も踏んできたので、そうしたやり方に体で慣れている。そんな要約でよろしいんでしょうか。

猪木:そうですね。誰もできないことをさせてもらうと。モハメド・アリともあれだけハードに戦って、結果的には最高の親友になったわけです。ボクシング同士の友達よりも何よりも私がいちばん。1995年には、彼を北朝鮮にも招待しましたし、私のプロレス引退のときも来てくれました。

要するに「外交に勝利なし」という言葉を私はよく使いますが、外交とはお互いがテーブルで主張するだけでなく、そのバックにはお互いの国民がいるのです。その落としどころを本音で語れる外交でなければいけない。今後は、周辺諸国との問題を解決するために、人間関係を深めないと。私は韓国にもつながりがいっぱいあります。

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