《よく分かる世界金融危機》米金融危機は日本にどんな影響を与えるか

米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題で受けた傷は比較的浅いはずの日本経済。大手銀行のサブプライムローン関連の損失は欧米主要行に比べると少ない。世界各地で起きた住宅バブル崩壊とも今のところ、ほとんど無縁。にもかかわらず、日本株の値下がりが目立つのはなぜか。

実は金融危機が国内景気に及ぼす影響を読み解くカギがそこにある。日本経済は“外需主導”。実質国内総生産(GDP)全体の半分以上は個人消費が占めるが、賃金の伸びの鈍さなどを背景に「内需」は盛り上がりを欠く。

代わって経済成長を牽引してきたのは輸出だ。日本企業の業績も自動車、電機など「メード・イン・ジャパン」製品の海外浸透に傾注してきた輸出型産業や、中国、インドなど新興国でのインフラ投資拡大の恩恵を受けた鉄鋼など素材業種の奮闘で底上げされた側面が大きい。

金融危機はそうした増益シナリオに修正を迫った。「世界の実体経済に打撃が広がり、日本製品などへの需要が減退し輸出減をもたらす」との懸念が日本株売りを加速させた。

野村証券の金融経済研究所が金融を除く主要400社のアナリスト予想を集計したところ、2009年3月期経常利益は現段階で前期比11%減。9月時点の同6%減から減益率が拡大した。それでも、「もう一段の下方修正がありそう」(同研究所の伊藤高志シニアストラテジスト)。原油価格上昇率や鉱工業生産などマクロ予測に基づいて減益率をはじくと15%前後になるという。

07年初からの原油価格の急激な値上がりは多くの企業を苦しめた。原材料などの調達に伴うコスト負担が膨らんだ一方で、川下への価格転嫁は思うように進まず、いわゆる「交易条件」が悪化したためだ。

08年夏ごろからは原油相場も値下がりに転じ、交易条件も改善しているが、需要減退を背景とする売り上げ数量の急減は、足元のコスト低減によるプラス効果を簡単にのみ込んでしまうほどの勢いだ。中でも「比較的小さい規模の企業の収益下振れ圧力が強まるだろう」(伊藤氏)。たくさん作るほど安いコストで生産することが可能になる「スケールメリット」を享受しにくい分、数量減の打撃は大きい。

企業を取り巻く収益環境が厳しくなれば、設備投資に対する姿勢も慎重になるのは必至。人件費を抑える目的で賃金引き上げや新卒者採用などを手控える結果、個人消費が停滞色を一段と濃くする可能性もある。

特に気掛かりなのが日本を代表する企業、トヨタ自動車の収益動向だ。北米での販売低迷が深刻で09年3月期営業利益の大幅減は不可避の情勢。同社の労使間の賃金交渉は春闘に大きな影響力があるだけに、個人消費の行方も左右しかねない。

輸出全体で見れば、「デカップリング(非連動)」状態がどこまで持続するかが先行きを占う大きなカギ。米国経済の急減速で、日本の対米輸出は減少傾向をたどる。一方で、中国への輸出が全体を支える。財務省の8月の貿易統計によれば、米国向け輸出が1兆0871億円余りにとどまったのに対して、対中輸出は1兆2229億円強に達し一時、最大の輸出相手国になった。

だが、中国をはじめとする新興国経済の先行きも決して視界良好とはいえず、下支え役として機能し続けるかは不透明だ。中国やインドでは自動車販売が前年比マイナスに転落。原油・天然ガス価格の値下がりがロシアの財政収支に及ぼす影響も気になる。

中国の株式市場では指標となる上海総合指数が07年10月高値から約7割下落。ロシアのRTS指数は08年5月高値から同8割の値下がりを記録した。新興国の株式相場はすでに「デカップリング」の完全崩壊を織り込んでいる。

「世界同時不況」の恐怖が募れば、株式相場の上値は一段と重くなる公算が大きい。むろん、株価の下落自体も国内景気には逆風となる。株式投資で損失を被った消費者が財布のひもを締めてしまう、「逆資産効果」が生じるリスクをはらむ。

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