大人が思うより子どもには世界が見えている 亡くなった母が遺した「告白文」に息子は…

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「彼女ができたので、一緒に行っていいですか?」

そうカイから連絡がきたのは今年の2月のことだ。

約2年前、カイは都内に飲食店をオープンさせた。当初はどうなることかと心配していたけれど、彼の店はオープン直後からまたたく間に人気店となり、雑誌やテレビでしきりに取り上げられている。ほかにも、新店舗のプロデュースの仕事を受けたり、2軒目の開店に着手したり。最近ではどことなく青年実業家たる風格さえ醸し出すようになってきたカイ。とはいえ、忙しい中でも相変わらずうちにやってきたり、息子を遊びに誘い出してくれたりする。

そんなカイが、なんとガールフレンドを連れてやってくるという。普段から決してモテないことはないのだろうが、特定の誰かを紹介されるのは、数年の付き合いでも今回が初めてのことだった。

「納豆っすね」

これは一大事だと、盆と正月が一緒にやってきたようなご馳走を作って2人を待つ。どんな子がやってくるんだろう、どんな子だったらうれしいだろう、と考えかけて、すぐに打ち消す。カイの人生は、カイだけのものだ。彼がどんなガールフレンドを連れて来ようが、身勝手に喜んだり、落胆したりしてはいけない……と、そんな心配も結果としては早々に杞憂に終わった。やってきたガールフレンドは社会学を学んでいるという大学4年生。なんと空手の有段者だという。

気を抜けばすぐに「押忍!」と返事を返しそうな気持ちのよさもさることながら、何より彼女の笑顔に、私はとても驚かされた。媚びや、恥じらい、強がりがまるでにじまない。こんなにも屈託なく笑えるものなのか、と。健やかさにあふれた、すばらしい女の子がやってきたのだ。

他愛もない会話の中で、何げなく好きな食べ物を尋ねた。すると、口を開きかけた彼女を遮るように、カイがニヤリとして答える。

「納豆っすね」

すると、すぐに彼女のほうが思い出したように、目をまん丸にして言う。

「……あ、そうそう、ちょっと聞いてください! すこし前まであまりお金がなくて、私、毎日納豆ばかり食べてたんです。一方カイ君は、毎晩のように仕事の付き合いでおいしいものを食べて帰って来るんです。お肉とかおすしとか、いいなぁって思いながら、私は来る日も来る日も納豆。そしたらある日、出張から帰ってきたカイ君が、めずらしく私にお土産を買ってきてくれたんです。"お、そんな気遣いを見せてくれるの?"って喜んで袋を開けたら、なんとそのお土産というのが……」

「もしかして……?」

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