三木谷社長、「規制強化」に怒りの辞任へ 薬のネット販売規制に抗議

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改革イメージ後退との見方も

規制改革で「岩盤」に切り込むと主張し、成長戦略を進めてきた安倍政権にとって、「岩盤」規制の打破を主張し、アベノミクスを支えてきた有力民間議員の辞任はリスクとなりかねない。

菅義偉官房長官は6日午前の会見で、今回の決定について「政権の判断ではない」と指摘。あくまでも医学、薬学の専門家が検討した結果であり、安全に配慮するのは当然だと説明した。政権の意向で規制を設けたのではないとの見方を示すことで、改革後退のイメージの広がりをけん制したかたちだ。

アベノミクスの第一の矢、第二の矢で円安、株高など一定の効果がみられ、安倍政権は第三の矢の成長戦略では、岩盤規制に切り込む姿勢を示している。そのモデルともなる新たな国家戦略特区を設置するにあたっては、「特区諮問会議」を設置、関係閣僚をメンバーから除外するなど、積極的な取り組み姿勢も示してきた。

しかし、「岩盤規制」のシンボリックな例として、雇用規制改革の分野では「解雇ルールの明確化」まで踏み込むことはできなかった。今回も大衆薬のネット販売解禁を100%認可するには至らなかった。

1つ1つの規制緩和の過程で、岩盤規制打破に向けた政権の本気度が疑われ、第三の矢が期待外れに終わると受けとられるようなケースが相次げば、市場の反応を通じてアベノミクスの好循環が停滞する可能性も出てくる。

岩盤分野は「結論急がず」、漸進やむなしと専門家

ただ、こうした分野の規制緩和に反対の声が強いのは、「規制が悪」と言えるほど単純な問題ではないためだ。雇用については、基本的人権にかかわる労働者の権利があり、薬のネット販売については副作用というリスクも伴う。専門家の間では、反対派のそうした理由にも配慮し、短期間での性急な結論で後から問題が生じて再び後退するよりも、時間をかけてでも漸進することも一つの選択肢との見方もある。

日本総研調査部長の山田久氏は「これで岩盤規制緩和を始めとする成長戦略が頓挫してしまうととらえるのは間違い」と指摘。「第三の矢の成長戦略というのは時間がかかると思っておいたほうがよい。安倍政権に問われているのは、議論をいかに継続していけるかだ」と指摘する。

ニッセイ基礎研究所・専務理事の櫨浩一氏は「三木谷氏にしてみれば、規制緩和をのろのろとやっていては会社経営がうまくいくはずないとの思いが強かったのだろう。経営者としての視点はよく理解できる。反面、政治の視点から見れば、国民生活への配慮も当然ある。規制緩和への反対にも一理あり、何十年もかけて築いてきたリスクへの配慮を一気に崩すには問題も多い」とみている。

ある与党幹部は「薬は直接的に命にかかわる。アベノミクスうんぬんというより、国民の安全が第一なのは言うまでもない」と指摘、「政権交代後、前には着実に進んでいる」と話している。

(石田仁志、中川泉、Layne, Nathan、基太村真司)

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