《MRI環境講座》第1回 地球温暖化が問いかける“環境問題”の意味

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 2007年に入ってからは、マイナス6%とともに、マイナス50%という数値が、頻繁に聞かれるようになった。これは、2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が示した第4次評価報告書のインパクトが大きかったのではないかと思う。
 IPCCとアル・ゴア氏は共にノーベル平和賞を受賞した。彼らの活動などを通じ、2050年までに地球全体として温室効果ガス排出量を半分程度にまで減らす必要があることが、広く世界に知らしめられたと言えよう。

 では、マイナス50%によって何が実現されるのか?それは、先述の気候変動枠組条約に示された「究極の目的」の達成である。
 条約では、「気候系に対する危険な人為的影響を防止する“水準”で大気中の温室効果ガス濃度を、安定化させること」との目標を掲げている。その“水準”は「生態系が気候変動に自然に適応し、食糧の生産が脅かされず、かつ、経済開発が持続可能な態様で進行することができる」こと、とされている。
 つまり、「生態系の適応」「食料の生産」「経済開発の持続可能な進行」を確保、維持していくことが、地球温暖化問題への取組のゴールである。そのために必要な取組の水準は科学が示した。それが、世界全体での温室効果ガス排出量を対現状でマイナス50%にすること、である。

■全ての企業が直面する環境問題

 時を遡り、かつて“環境問題”は、例えば公害の直接的な原因を生み出す一部企業に限定された問題だった。しかし、現代の“環境問題”は、現代の全ての産業・企業が原因をつくり、一方ではその影響を被ることとなる。環境問題は、より根源的に企業活動に影響を及ぼす存在となった。

 特に、地球温暖化の問題は、世界が直面する様々なリスク-非常に重大なリスク-の一つとしても位置づけられている。最近では、「気候セキュリティ」といった言葉もよく耳にする。

 誰かのために、という事ではなく、我々自身のために、今、ここにある“環境問題”に対峙してくことが求められている。現代の“環境問題”とは、そうしたものである。
関与・影響範囲、主体の拡がりを見せる現代の環境問題
 では、企業は、ビジネスパーソンは、この問題にいかに対応すべきか。次回以降は、この問題が企業に直接・間接に与える影響について具体的に解説し、また取るべき施策の方向性についても検討していくこととする。
《プロフィール》
株式会社三菱総合研究所
環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部
環境・エネルギー研究本部は、環境・エネルギーに係わる様々な専門分野を持つ約100名の研究員により構成。その前身の地球環境研究本部は、リオ・サミットの前年である1991年の創設以来、国などにおける環境関連政策、制度設計の支援、関与など中心とし幅広い実績を持つ。
また、企業における環境問題への取組の浸透、拡大等が進む中、先進的な環境関連の事業、ビジネスを支援する機能として、環境フロンティア事業推進グループが2007年10月に設立。電話番号は、03-3277-0848

吉田直樹 主席研究員
環境フロンティア事業推進グループリーダー(兼)環境・エネルギー研究本部
様々な企業における環境・CSR経営システム、事業戦略の構築、次世代“エコ”商品・サービス開発の支援などの業務を手がける一方、真に環境コンシャスな企業、環境問題を成長機会として捉え、活かしている企業の評価の手法、そしてこれらへのファイナンスの仕組みなどを開発中。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2008年5月16日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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