GAFAの躍進を支えるリバタリアン思想の正体 自由至上主義者のユートピアが現出した

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だが、ギャロウェイ教授は、彼らに痛めつけられた自らの経験も踏まえてこの四大企業の本性と怖さを教え、そのサービスを無批判に享受し続ける信者たちに警鐘を鳴らす。四騎士とは、聖書のヨハネの黙示録に登場し、地上の四分の一を支配する強大な力を与えられて平和を脅かし、殺戮や飢饉など厄災をもたらす恐ろしい存在だ。

教授は、四騎士が指し示すのは「少数の支配者と多数の農奴が生きる世界」だと言う。そこはごく限られた強者がゲームのルールを決め、富を独占しながらも税から逃れ社会的責任も果たさない非民主的な世界であり、卓越した能力を持たない凡人がわずかな残り物を争う殺伐とした世界だ。アマゾンの正体は、既存ビジネスと雇用の「破壊者」である。

教授によれば、GAFAは「盗みと保護」によって躍進し、その支配は消費者の本能、主に下半身に訴えるブランド戦略によって盤石なものとなっている。絶対的な力を手にしたGAFA企業は絶対的に腐敗するリスクをはらんでおり、集中しすぎた権力は規制し、解体すべきというのがその主張の一部だ。

次の時代を生き抜くにために、教授が若者たちに提案するのは、まずはこの四騎士の本質を理解すること。そして、次なるスティーブ・ジョブズを夢見るのではなく、「大学にいく」こと、「友人を大切にする」こと、「資格をとる」ことなど。教授が起業したのも、大企業で働くスキルが欠落していたためだという。

本書によって読者は、彼ら四騎士がどのようにビジネスと消費の常識を変えてきたかを知ると同時に、GAFAが君臨する新世界での自分自身の信条と立ち位置について、改めて確認できる。そこにはGAFAを誕生させ、躍進させた文化と、それが目指すユートピアの本質が示されているからだ。

リバタリアンのユートピア

GAFAを生み、育て、その独裁を許し、アメリカ議会までもがひれ伏す神聖な帝国を築かせたのは、卓越した商品やサービスを生み出す起業家こそが大きな価値を生み出し、応分の見返りを得るに値するという信条、シリコンバレーなどアメリカの西海岸に巣食うリバタリアンのDNAだ。

GAFAが体現するリバタリアンのDNAとは、次の3点に要約される。第1に、権威ではなく個人がそれぞれの目標と幸福を定義できるとする「個人主義思想」、第2に、少数の天才が社会を前進させる原動力になるという「英雄礼賛文化」、第3に、最小限の国家の介入を理想とする「自由市場経済」である。地上の四分の一を支配し、旧世界に侵食しつつある無慈悲な新世界は、自由至上主義者のユートピアなのだ。

まず、第1が「個人主義思想」だ。GAFAが君臨する世界では、正しいことやいいことは個人によって違っており、それぞれが自分にとっていいこと、時間の使い方をより高い自由度を持って決めることができる。そこでは知りたいことを知りたいときに調べ、買いたいものを買いたいときに買い、遠い国の戦争ではなく、昔の友人や同僚の近況を自分の指先で探し、楽しめる。

「グーグルの登場で、私たちはそれぞれ違う問題、目標、欲望を持つ個人とみなされるようになった。私たちはそれぞれ違う質問をする」と教授は分析する。

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