「専業主婦にiDeCoは無意味」は大間違いだ 年収103万円「以下」でも「超」でも加入すべき

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まず、従来どおりまったく所得税がかからない103万円の範囲内で働く場合を考えてみます。主婦がパートで働く理由は大きく分けて2つでしょう。1つは夫の給料だけでは生活が苦しいので働く場合、そしてもう1つは自分のお小遣いを稼いで好きなものを買ったり旅行に行ったりするため、という場合です。しかしながら働く目的に、これらの2つに加えて3つめとして「老後の生活資金作り」を入れてみるのはどうでしょう。

積み立て可能な金額は年間で27万6000円です。パートで働いた収入の中からこの金額を老後資金に回す予定で積み立てたとします。仮に40歳から60歳までの20年間積み立てれば積み立て累計は552万円になります。夫が定年退職して退職金をもらう際にこれだけのプラスがあれば、心強いと言えます。それにiDeCoを使っても使わなくても、老後のための資金作りは誰もが考える必要があります。

だとすれば、たとえ所得控除が受けられなくても、運用益に税金のかからないiDeCoを利用することにはメリットがあるのではないでしょうか。

NISA(少額投資非課税制度)も運用益は非課税ですが、投資としてしか使えませんから、人によってはiDeCoのほうが使いやすいという場合もあるでしょう。それにもしiDeCoの積み立てを20年続けると退職所得控除は800万円ですから、この場合、受け取り額に税金はかかりません。

「103万円超」でも妙味あるが「所得の壁」を意識せず活用を

また仮に103万円を超えて働いたとしても、iDeCoを積み立てると積み立て額は全額所得控除されます。ただ気をつけないといけないのはもう1つの壁、一定収入を超えると社会保険料を自ら負担しなくてはならなくなる「130万円の壁」です(一部の企業では106万円)。したがってこれを超えないように、仮に年収を129万円に抑え、iDeCoを満額の27万6000円積み立てれば、所得控除分が差し引かれるので税金もかからず、社会保険料の負担もないということになります。

しかしながら、こうしたいわゆる裏ワザ的なことではなく、女性の立場からもう少し根本的な老後資金対策ということを考えた場合、私は「〇〇万円の壁」にあまりこだわり過ぎる必要はないと思っています。

もちろん税金も社会保険料も、負担する額は少ないに越したことはないでしょう。しかし、考えてみると女性は男性よりも平均寿命は長いのです。つまり生涯支出は男性よりも多い可能性があります。にもかかわらず、まだまだ残念ながら生涯賃金は男性よりも少ないのが現実です。であれば、将来に向けて老後資金を準備しておく必要性は、男性よりもむしろ女性のほうが高いと言えます。

働ける機会があるのなら「壁」を気にするのではなく、積極的に働いて将来の厚生年金をたくさん受け取れるようにしたり、収入の中からiDeCoや少額投資非課税制度(NISA)のような税制優遇のある制度を積極的に活用したりするほうがいいでしょう。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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