山根会長「スッキリ」出演に見た強烈な違和感 日本ボクシング連盟の「ドン」は失言だらけ

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さらに加藤さんから「最終的に助成金を成松選手に戻したのは『よくない』と思ったから?」と聞かれると、「『間違いだった』と分かりましたので、私が息子から買ってもらった時計を売って160万円を成松選手に送りました。息子から買ってもらった大事な時計を……」と同情を誘うかのような言葉が口をついたのです。

怒りをぶちまけたと思ったら、数分後には弱気になり、同情を誘おうとしてしまう。そんな感情のコントロールができない姿を見た人は、「あれはひどすぎる」「自分は大丈夫」と思うかもしれませんが、過信は禁物。山根会長のような組織トップや管理職には、こういうタイプが少なくないのです。

たとえば、部下を叱ったあと、突然自分の失敗談を話したり、優しい言葉をかけたりしたことはないでしょうか。誰かを叱り続けていると、その状況に疲れて徐々にパワーダウンするとともに、自分の弱さをさらけ出してバランスを取ろうとする人は少なくないのです。

なかでも盲点になりがちなのは、「相手のことを思って叱る」という思いの強い人。その思いが強いほど、「相手に対する言葉の攻撃性が増し、自分の弱さや優しい言葉でフォローして辻褄を合わせようとする」というパワハラのような行動をしがちなのです。ちなみに、山根会長は「選手のために」が口癖のようなタイプの人でした。

セルフ・ネガティブキャンペーンに終始

最後に、進退について聞かれた山根会長は、「この問題で進退は考えていません。なぜ進退って出るんですか? 連盟は何の落ち度もありません。ありません!」ときっぱり。さらに、「『なぜテレビの生(放送)に出たか?』というと理由があります。一昨日ですね。元暴力団森田組の組長から私の知人を朝方の1時ごろ呼んで、『山根に言っとけ』と。『3日以内に引退しないと山根の過去をバラす』と脅されました。だから僕は立ち上がったんです」と話してインタビューは終わりました。

冒頭のあいさつで、なぜか子ども、孫、ひ孫などの名前を挙げて呼びかけたあと、自分の手柄を並べ立てながら当事者たちを次々に批判。最後の開き直りとコンプライアンス無視の発言まで、感情に任せた無防備なメディア対応は、まさに“セルフ・ネガティブキャンペーン”でした。その意味では、各所に告発状を送った『日本ボクシングを再考する会』にとっては、追い風が吹いたと言えるかもしれません。

一方、このコラムを読んだビジネスパーソンのみなさんは、山根会長がこれ以上ない反面教師に見えたのではないでしょうか。「自分は問題ない」と思っていても、「立場変われば人変わる」のも人間の真実。力とお金を手にし、そこに長く居続けることで、変わってしまわないために、組織トップこそ自他両面からの定期的なチェックが必要なのです。

疑惑の解明に加えて、好物のカンロ飴や乾パンなどの接待リスト、会場の豪華なイスなどツッコミどころの多さもあり、今後もメディアはこの話題を重点報道するでしょう。しかし、東京五輪まで2年を切った今、いたずらに騒動をあおるのではなく、一刻でも早く「アスリートファースト」の組織に生まれ変わるための報道に徹して欲しいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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