選挙のパラドクス なぜあの人が選ばれるのか? ウィリアム・パウンドストーン著/篠儀直子訳 ~投票方法の知られざる落とし穴を明快に解説

選挙のパラドクスなぜあの人が選ばれるのか?ウィリアム・パウンドストーン著/篠儀直子訳~投票方法の知られざる落とし穴を明快に解説

 

評者 江口匡太 筑波大学大学院准教授


 北京五輪の野球とソフトボールで、タイブレークという延長戦のルールが導入されていたことを覚えている人は多いだろう。このルールが導入されれば、当然、作戦は変化する。ルールが変われば行動が変わり、勝者も変わりうるだろう。

 

選挙にも明確なルールがある。わが国においても、小選挙区制、比例代表制、かつての中選挙区制などのさまざまなルールが施行されてきた。米国の大統領選挙においても、民主党の予備選で見られた得票率によって選挙人を得るのか、共和党の予備選のように勝者総取りとするのか、違いが見られる。

選挙のルールが異なれば、必勝法も変化するのはスポーツと同じである。しかし、「勝ったものが強い」と言っても許されるスポーツと違って、選挙で当選したら何もかも民意を得たと即断されては困る。そのルールがどれだけ民意を反映するのか検証する必要性があるのだ。

本書は、わが国を含めて選挙で広く利用されている「一人一票」が、これまでどれだけ歪んだ選挙結果をもたらしたかについて、米国の大統領選挙の歴史を振り返り、望ましい投票制度に関する理論研究の進展を、学者のエピソードを交えながら紹介していく。民意を反映した選挙制度だったら、あのリンカーンは大統領になっていなかったかもしれないのだ。

本書で紹介されている手練手管を見ると、政治の汚い世界を嫌悪したくなるし、そうした汚いやり方が得にならないような選挙制度の方が望ましいように思う人が多いだろう。一方で、理論では注目されにくいことだが、そうした駆け引きを勝ち抜くタフなリーダーが求められているとも考えられる。わが国の制度はどんな政治家を選びやすい傾向にあるのか、選挙を控えた今こそ考えたい。

William Poundstone
マサチューセッツ工科大学で物理学を専攻。雑誌に科学・技術関係の記事を定期的に寄稿、ポピュラー・サイエンス関係の著作が多数あり、ピュリッツァー賞の候補になっている。ロサンゼルス在住。

青土社 2520円 414ページ

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