日本建築は今も木造の伝統を受け継いでいる ヨーロッパの「石造」建築とは対照的だ

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――木造建築の継承以外に日本の現代建築の特質はありますか。

SANAA(妹島和世+西沢立衛)の二人は自由な造形で注目されています。床が斜めになっていたり、建物全体が水滴のような丸い形をしていたりする。そういったことができるのは薄さ、軽さ、透明さという日本建築の特質を受け継いでいるからだと思います。

隈研吾さんの建築にも自由さがありますが、SANAAとはまた少し違う“微分した造形”なんですね。部材のサイズを小さくしていくことでいろんな矛盾を解決しようとする。本来は混ざり合わない水と油に仲介するものを入れ、高速回転させて乳化させるような感じです。

建築展が人気の理由は?

――この展覧会に限らず、建築展は海外でも日本でも人気です。なぜだと思われますか?

「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」展示風景=森美術館、2018年(写真:来田 猛 画像提供:森美術館・東京)

日本では、建築は住宅という日常の延長であり、インテリア・住宅雑誌に親しんできた層にとってはとくに親しみやすいものなのでしょう。一方ヨーロッパでは、建築は美術と同じような教養の一つです。ルネサンス期には絵画や彫刻の上に立つものとして位置づけられていました。バウハウスでもあらゆる造形活動のおおもとが建築だとされています。

中でも日本の現代建築は近年とくに注目されています。海外で日本の建築展があるとお客さんがたくさん来る。ヨーロッパとは違う遺伝子を持ち、独自の進化を遂げてきた日本の建築は世界でも類のないものとして大きな興味を持たれているのです。

(文:Naoko Aono)

藤森照信(Terunobu Fujimori)/1946年長野県生まれ/建築家・建築史家。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。現在、東大名誉教授、工学院大学特任教授、江戸東京博物館館長を兼任する。建築史家として『明治の東京計画』で毎日出版文化賞受賞、『建築探偵の冒険・東京編』でサントリー学芸賞、日本近代の都市・建築史の研究により日本建築学会賞・論文賞を受賞。1986年、赤瀬川原平、南伸坊らと路上観察学会を発足。1991年〈神長官守矢史料館〉で建築家デビューを果たした後、「熊本県立農業大学校学生寮」(2001/日本建築学会賞・作品賞受賞)「多治見市モザイクタイルミュージアム」(2016)など40余の建築作品を手がけている。

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「HILLS LIFE DAILY」編集部

六本木ヒルズ開業の翌年に創刊された、都心エリアのためのライフスタイルメディア。都市生活者に向け新たな情報やトレンドを伝え、アイデアやビジョンを広く提案しつつ、東京という街のクリエイティブな可能性を高めてゆくことを目的としている。

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