「トルコの可能性を奪ったブッシュ政権の大きな罪」 ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

トルコが政情不安に揺れている。争点となっているのは、同国における「政教分離」のあり方である。

 この政情不安の主役は二人いる。一人目が、穏健派イスラム系の公正発展党(AKP)の党首であるエルドアン首相。もう一人がトルコ軍のビュユクアヌト参謀総長である。トルコ軍は、トルコ建国の父ケマル・アタテュルクの出身母体であり、共和国の伝統である「世俗主義(政教分離)」の守護者を自認している。この両者が、セゼル現大統領の後継者の選出をめぐって、激しく対立しているのだ。

 春先にエルドアン首相が側近であるギュル外相を大統領候補に推すことを明らかにすると、軍と世俗派が不満を表明した。世俗派であるセゼル大統領の後任にギュル外相が選出されると、大統領と首相がともにイスラム系のAKP党員となり、イスラム色が強まることを危惧したのである。ビュユクアヌト参謀総長は「大統領は非宗教的な人物でなければならない」と批判し、野党も「AKPの候補者が大統領になれば、AKPは穏健的な政策を継続しないかもしれない」と主張した。

 私は何度かエルドアン首相に会ったことがあるが、彼は穏健で理性的な人物である。さらに与党のAKPはトルコ国民の幅広い支持を得ている。驚異的な経済成長を実現し、人権法案を成立させ、少数派のクルド族の扱いを改善してきた実績があるからだ。また、大統領候補のギュル外相も、トルコのEU加盟を推し進めてきた人物である。そのため、ギュル外相が大統領候補に指名されたことに対し、世俗派がこれほど強く反対したことに私は驚いた。

 大統領の選挙は国会議員による投票で行われるが、4月の選挙において、ギュル候補は当選に必要な票数を獲得できなかった。この投票結果をもって、野党は投票の無効を主張し、国家主義者であるケマル主義者も伝統的な世俗主義を支持する大規模なデモを行った。

 それに対し、エルドアン首相は憲法を改正し、国民投票で大統領を選ぶ道を模索している。憲法改正案に対しては、最高裁が違法と裁定し、セゼル大統領も拒否権を発動したが、国会で改正案は可決された。このまま首相公選制が認められた場合、総選挙が行われる7月22日に、大統領選出の国民投票が行われることになる可能性が高い。

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