(第29回)素粒子物理学の発展に大きく貢献、南部陽一郎の業績

桜井進

 スウェーデン科学アカデミーは、2008 年のノーベル物理学賞を南部陽一郎、益川敏英、小林誠の3名に与えると発表した。ようやく栄冠を手にしたこの3名の物理学者の足跡に迫ってみたい。

●素粒子物理学の伝統

 素粒子物理学はこの宇宙に存在する物質になぜ質量があるのかを説明する理論である。物質に質量、つまり重さがあるのはなぜかと問うこと自体に違和感をもたれる方がいても不思議ではない。では物があって質量がないことがあるのか? そもそも質量とはなんなのか?物理学とはまさに宇宙の根源を追求する学問であり、素粒子物理学といわれる分野なのだ。物質の根源とは何か?をどこまでも考えるこの学問は古代より多くのアイディアが考えだされ、実験により実証され発展してきた。1920年代、量子力学の誕生により私たちの自然観は大きく変更されることになり、素粒子物理学が誕生していくことになった。日本では物理学者・仁科芳雄がその先頭に立って欧米の最先端が日本に輸入された。仁科の弟子が日本初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹そして朝永振一郎だった。ここでもまた歴史は繰り返されたといえる。本連載第25回高木貞治でも述べたことであるが、欧米の最先端を取り入れその核心を見抜き、我が道を突っ走る日本人の後ろ姿を見ることができる。はたしてその結果は前人未踏、世界初の発見につながるのであった。
 仁科に始まる近代物理学の伝統は湯川の中間子理論、朝永の量子電磁力学に受け継がれ、常に最先端を走り、その底流では学問の王道を着実に歩んで来たと言える。今回の南部陽一郎、益川敏英、小林誠のノーベル物理学賞受賞はまさにその延長線上にあったのだ。

●物理の50年後を知りたいのなら南部に訊け

 理論物理学者・南部陽一郎は、1921 年東京生まれ。大阪市立大学名誉教授、大阪大学名誉教授、フェルミ国立加速器研究所名誉教授、シカゴ大学名誉教授。
 これまでの受賞歴をみるだけで理論物理学者として世界的権威であることがわかる。
1970年 ダニー・ハイネマン賞
1977年 ロバート・オッペンハイマー賞
1978年 文化勲章
1983年 アメリカ国家科学賞
1985年 マックス・プランク・メダル
1986年 ディラック賞
1994年 ウルフ賞物理学賞
主な研究は、次の3つである。
・対称性の破れの理論の提唱
・三色クォーク模型の提唱
・ひも模型への貢献
 今回のノーベル賞受賞理由は第一の「素粒子物理学における自発的対称性の破れの発見」であった。もともと物性理論や超伝導理論における「対称性の自発的な破れ」という概念を素粒子論~場の理論~に導入し、π中間子がこの対称性の自発的な破れによって出現する粒子であることを明らかにした。
 実は理論物理でノーベル賞をとることは難しい。それはアインシュタインが相対性理論でノーベル賞を受賞できなかったことでもわかることであるが、実験により実証された業績に対して与えられるのがノーベル賞なのである。理論物理の理論は無数にあるといっていい。そのうち実証されるものはほんの一握りにすぎない。
 特に素粒子物理の実験はビックサイエンスの先駆けであり、実験できること自体が困難を極める。巨大な粒子加速装置の建設は国家レベルの予算と高度なテクノロジーが要求されるのだ。実際、アメリカでは国立フェルミ研究所、ブルックヘブン国立研究所、そしてスタンフォード線形加速器センター、ヨーロッパでは欧州原子核研究機構、日本では高エネルギー加速器研究機構と、世界の実験拠点は数えるほどしかない。

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