過労死・自殺が相次ぐ勤務医、ずさんな労務管理が横行、2割が過労死ライン

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現に多くの病院で、勤務医に対する労務管理は極めてあいまいであり、ずさんなことが厚生労働省の調査からも明らかになっている。

たとえば当直(宿日直)の扱いだ。

同省労働基準局が596の医療機関を対象に行った「宿日直」に関する監督結果(06年3月)によれば、72%に当たる430の医療機関で「何らかの労働基準関係法令違反がある」ことが明らかになっている。中でも「宿日直時に『通常の労働』を行ったことに関する労基法第37条違反(割増賃金不払いに対する違反)」が101件、そのうち医師にかかわるものが50件となっている。

厚労省は先立つ02年3月19日付で「医療機関における休日および夜間勤務の適正化について」と題した労基局長通知を出しており、この中で「宿日直勤務」について詳しく規定している。「宿日直勤務とは本来業務は処理せず、構内巡視、文書・電話の収受または非常事態に備えた待機」などで「ほとんど労働する必要のない勤務」とされている。

ところが、病院の当直は厚労省通知に書かれているような穏やかなものではなかった。実際には宿直(当直)の中で医師が夜間診療や救急に携わっている病院は少なくない。本来、そうした突発的な通常労働に対しては割増賃金を支払わなければならないが、実際には払っていない病院が多いことが前出の厚労省調査で判明している。

また、医師が自宅に待機する「宅直」(オンコール)については、労働時間に該当するとして、時間外手当の支払いを求める訴訟が県立奈良病院の産婦人科医2人によって起こされている。

勤務医の労働実態は、通常勤務についてもきちんと把握されていない疑いがある。医師の勤務時間を記録するタイムカードがない病院や、大学院生をただ働きさせている大学病院もある。こうした事実は世間には知られていないが、医療界ではごく当然のこととされている。

勤務医の2割以上が「過労死ライン」に相当

医師の労働時間は長いと言われるが、実際はどうなのか。日本病院会による「勤務医に関する意識調査」(06年7月実施、61ページ上グラフ)では、2割以上の勤務医の労働時間(当直を除く常時)が「週64時間以上」となっている。40時間の法定労働時間を超える部分を月換算すると96時間以上の超過勤務だ。これは厚生労働省労働基準局が定めた過労死の労災認定基準(脳血管疾患および心疾患)に該当する。つまり、勤務医の2割以上が通常勤務だけで過労死ラインになるのである。

日本病院会の同じ調査では、「1カ月の夜間当直」の回数も尋ねているが、「3~4回」が40・8%、「5回以上」が17・1%と合わせて5割以上に上っている。

たとえば、週1回の夜間当直を通常勤務と併せて考えてみよう。当直時間を病院に拘束されている時間に含めると、勤務医の約7割が週64時間、すなわち時間外だけで100時間も病院に拘束されている計算だ。

夜間当直の翌日についても、「忙しさと無関係に翌日は普通勤務をせざるをえない」が88・7%を占めており、ほとんどの病院で当直明け勤務が常態化している。

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