一方、今、李嘉誠がチャンスととらえているのが金融危機後のヨーロッパ市場だ。英国など各国のエネルギー関連への投資を急速に増やしており、この3年間での欧州への投資額は、李ファミリーが営む事業の3分の1に達するとも言われている。
問題は、普段から「愛香港」「愛中国」を口癖のように語ってきた李嘉誠が、今の時点で中国と香港に「売り」を仕掛ける理由が、どこにあるのかである。 中国では、人件費が10年で数倍にも上がり、製造業には以前のようなうまみがなくなってきている。薄地価や株価も一部では頭打ちになってきているし、シャドーバンキングの問題など、金融システムの不安もささやかれて久しい。
思わしくない政治状況
李嘉誠が最も懸念していると言われているのが、中国での政治リスクの問題だ。共産党一党統治による法制度の恣意的運用の問題は相変わらず深刻で、自己本位的な理由で中央や地方の政府の政策変更も頻繁に行われる。こうした「人治」の問題が、企業にとって政治リスクであることは間違いない。
李嘉誠はもともと江沢民をバックにつけてきたので、政治リスクという点でも十分に安全圏にいることができた。しかし、江沢民もすでに高齢に達して健康不安がささやかれるうえ、習近平指導部が発足したことで、相対的に江沢民系の力が弱まったとされる。李嘉誠が将来に不安感を抱いても不思議ではない。
盤石に見える李一族のビジネスだが、それは基本的に法治が保証された世界でのことであって、中国共産党式の人治社会では、ビジネスマンの繁栄など一瞬にして無に帰する。
一方、香港でも、李嘉誠にとっては思わしくない政治状況が生まれている。2012年の香港特別政府のトップを決める長官選挙で、李嘉誠など香港財界が推したヘンリー・タン(唐英年)氏が、当初、本命と見られていたにもかかわらず、親中色の濃いC・Y・リョン(梁振英)氏に予想外の敗北を喫した。その背後に、中国政府の意向が働いたと見る向きは少なくない。
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