新たな地域医療格差? 必要な血液は届くのか、日本赤十字の危うい集約戦略

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医療現場と温度差 検査も製剤も影響が

集約化で検査施設がなくなり、この9月で製剤も埼玉の基幹センターに吸収された長野県。県内三つのセンターからは1日に何便も血液運搬車が走行している(下地図)。本誌の取材によると、献血血液を載せた第1便の血液運搬車が長野センターを出るのは13時過ぎ。上信越道から関越道を進み、16時半埼玉センターに到着。原料血を降ろし、血液製剤を載せて1時間後に出発。圏央道から中央道を回り、22時過ぎ、長野に帰着する。第2便は松本と埼玉の往復便。第3便の長野発便は途中、松本と諏訪で原料血を引き取り埼玉に到着。搬送員は狭山市内で宿泊後、翌朝再び製剤を載せて諏訪、松本に寄りながら長野に戻る。3便合計の総走行距離1400キロメートルにも及ぶ“血液のリレー”だ。

「本音で言えば集約化はやめてもらいたい」。JR上諏訪駅に程近い諏訪赤十字病院の塩原信太郎検査・輸血部長は言う。「日赤が計画的に輸血を供給したいのはわかる。実際、数日前から予定された手術なら血液製剤確保に問題はないだろう。ただ、突発的に、あるいは時間外に何かが起きるのが医療だ」。

塩原医師は検査集約化の影響はすでにあると言う。近年、抗ガン剤の威力が強まるにつれ血小板輸血の回数を増やす必要が出てきたが「その結果、血小板不応性症状という新たな問題が浮上している」。血小板は自己と非自己を識別するHLA抗原を持ち、輸血によって自分と異なるHLA抗原を発見するや、それを異物として攻撃する抗体を作る。こうなると血小板輸血をしても止血せず、最悪は出血多量で死に至る。

血小板不応を起こした患者はHLAが適合した血小板製剤を輸血しなおさなければならない。「県内血液センターに『もっと合った血小板が欲しい』と電話すればすぐ調査し選別してくれたが、埼玉に移ってからは距離的に遠いせいもあってきめ細かい対応が減った」(塩原医師)。血小板不応は臓器移植や再生不良性貧血、白血病等で何回も輸血する患者なら誰しも起こりうる。

寒冷凝集素症(血液を冷やすと赤血球が固まる)も怖い。悪性リンパ腫や慢性リンパ性白血病患者に加え、マイコプラズマ肺炎でも起きる身近な病態で、溶血で循環不全に陥るおそれがあり、血液型や抗体の種類が検査できないこともある。また、不規則抗体といって過去に一度でも輸血を受けた人や、出産時に子どもの血が体内に入った経産婦が違う病気で輸血した場合に凝集が起きることもある。赤血球の抗原は400種類あり、患者に適合した赤血球を選ぶのは「血液専門医でも難しく、日赤の調査力に頼る医療機関が多い。時間外にこうしたケースが起きたときに対応が難しくなる。日赤は優れた相談窓口をぜひ近くに残してほしい。そうでないと都会と田舎との医療格差が拡大する」(塩原医師)。


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