新田次郎の『夜光雲』を知っていますか

大作家が描き出した奇天烈なストーリー

世の中にあふれる本の数々。どんなに読書好きであっても、その存在すら知らないような珍書(大作家の意外な作品、奇天烈なストーリー)はゴマンとある。そんな「珍書」の蒐集に情熱と財産をつぎ込む古書山たかし氏が、目からウロコの珍書探訪記をお贈りする。連載タイトルの「稀珍快著探訪」は、大正時代に活躍した、主に医学的見地に基づく奇譚の収集家・田中香涯の古今の珍談を集めた奇書『奇・珍・怪』にあやかってつけた。さあ、稀珍快著の世界へ行ってみよう!

記念すべき第1回。最初に取り上げるのは、新田次郎(1912~1980)の作品、『夜光雲』(講談社 昭和42年 221ページ)である。

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『夜光雲』は新田次郎トンデモ系の頂点に立つ珍書といえる

新田次郎は、今更いうまでもなく日本を代表する小説家である。中央気象台(今の気象庁)の有能な技術者でありながら、夫人・藤原ていの『流れる星は生きている』がベストセラーになったことに刺激を受け、小説の世界に進出。緻密な取材と雄大な構想で数々の傑作をものにしている。

大河ドラマ原作にもなったライフワーク『武田信玄』、絶滅寸前だったエスキモーのために人生を捧げ尽くした実在の日本人・フランク安田を描いた『アラスカ物語』、映画の印象も鮮烈な『八甲田山死の彷徨』、など、歴史小説、山岳小説(本人はこの呼称を嫌がっていたそうだが)の傑作が目白押しである。

富士山気象レーダーの建設責任者

それに加え、気象庁の技術者、藤原寛人としては、当時の技術力では極めて困難だった富士山気象レーダーの建設責任者として陣頭指揮に立ち、見事設置に成功。日本気象予報史上特筆すべき革新をもたらしたこの業績は、NHKの人気番組『プロジェクトX』の第1回でも取り上げられている。

息子で数学者の藤原正彦も今や大人気の文筆家であり、グーグル検索のヒット数も新田次郎で38万2000件、藤原正彦で29万7000件と、それほど大きな差はない。という位の情報を列記すれば、ある程度一般的に知られる新田次郎像を述べたといえるだろうが、この連載に取り上げられていることから容易に想像出来るように、この人の作品群を見ていくと、意外にそれらのメジャーとなるべくしてなった「主峰」から外れた作品がポツポツとある。

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