《財務・会計講座》金利ゼロの負債の不思議~転換社債型新株予約権付社債(CB)~

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《財務・会計講座》金利ゼロの負債の不思議~転換社債型新株予約権付社債(CB)~

「当社は財務体質が良くないので社債を発行すると金利が高い。このため、転換社債を発行することにした。なぜなら金利がゼロだから」という企業経営者が多い。なぜ普通社債だと1~2%の金利を支払わねばならないのに、CBだと金利はゼロとなるのであろうか? 「この世の中にただのものはない」、「ただほど高いものはない」という格言があるが、ファイナンスの世界では通用しないのであろうか?

 そもそも、なぜCBは金利ゼロでも投資家は購入してくれるのであろうか? これを解く鍵は「CBとは何か」にある。

 CB(Convertible Bond)の正式名称は、「転換社債型新株予約権付社債」と長い。これは、「新株予約権」の付された「社債」であり、「転換社債」の形態をとったものである、ということを意味している。それぞれについて考えてみよう。

■普通社債と転換社債の差異とは

 まず、「社債」であるが、これは企業等が発行する借入金で債券の形をとったものである。国が発行する債券は「国債」といわれ、企業が発行するものは「社債」と呼ばれる。

 通常、債券は一定の期間ごとに利息を支払い、満期日には元本が支払われる。これを「利付債」といっており、社債券面上に元本の金額(これを「額面金額」という)、年間の利子率(「クーポンレート」という)、そして満期日(「償還日」という)に元本額を返済する旨の文言が記載されている。

 一方、一定期間ごとの利払いがなく満期日に元本を一括して返済する形態のものを「割引債」という。このような割引債は、満期までの期間の利息相当額を額面金額から予め差し引いた価格で販売される。つまり満期までの期間の利息を割引いた現在価値で販売されることから「割引債」と称される。手形の割引と同じ原理である。

 次に「新株予約権」であるが、これは発行会社の普通株式等を一定の期間の間、予め決められた価額で購入する権利を意味する。例を挙げれば、ある企業の発行日現在の普通株式の株価が1000円だった場合、発行日以降5年の間、例えば1100円で発行会社の普通株式を購入できる権利である。この1100円の株価を「行使価額」と呼んでいる。株価は常に変動しており、将来株価が1100円以上に値上がりした場合、この新株予約権を行使すれば利益が実現できる。

 「転換社債」は、上記の社債部分と新株予約権部分が不可分の一体をなしており、新株予約権を行使すると、社債の元本部分が株式取得の払込金に充当されて株式に変わることになる。

 以上から、「転換社債型新株予約権付社債」とは、「予め決められた株価で株式に転換できる権利のついた社債」ということになる。これは権利であり、義務ではない。したがって、株価が上昇すれば転換権を行使して株式を取得し、市場で売却することで売却益が得られる。一方で、思惑が外れて株価が上昇しなかった場合には、新株予約権は放棄し社債の満期に元本を受け取ればよいことになる。

 ここまで説明すれば、普通社債であれば金利を支払わねばならないのに、CBであれば金利を支払わなくともよい理由が理解できよう。新株予約権は将来株価が上昇すれば行使して利益を得られる権利であり、したがって価値があるからである。普通社債であれば2%の金利を支払わねばならなくとも、この普通社債に支払い金利と同等の価値を持った新株予約権を付帯させれば、投資家は買ってくれる。つまり、上記の例であれば、CBは「2%の投資利回りとなる普通社債(割引債)」部分と「CBの発行価額とこの普通社債(割引債)の価額との差額に等しい価値を持った新株予約権」部分とで構成されていることになる。

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