危機に瀕する自治体病院、リストラ迫る総務省、利害対立で再建計画の頓挫続出

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危機に瀕する自治体病院、リストラ迫る総務省、利害対立で再建計画の頓挫続出

受付がある1階フロアに人影はなく、院内はひっそりと静まりかえっていた--。

京都府舞鶴市にある市立舞鶴市民病院。人口9万人の港湾都市を支えてきた中核病院が、瀕死の状態にある。4階建て198床のうち、現在使われているのは2階の40床だけ。病棟の3階、4階はほとんど使われず、患者のいないベッドは片付けられたままだ。

かつて舞鶴市民病院は、自治体病院の優等生と呼ばれた。1990年には経営体制の優れた病院に与えられる自治体立優良病院賞を受賞。当時の自治大臣に表彰された。その後も米国から高名な医師を招いての研修制度が評判を呼び、若手の研修医を全国から集めた。ところが、2001年に35名在籍していた常勤医は、現在5名に激減。内科の外来患者は1日にわずか15人程度で、開店休業状態だ。市民の病院にいったい何が起こったのか。

二転三転する方針 病院内はがらんどうに

 発端は02年、病院長の退職だった。人口減少に伴って患者数が減ったために経営が悪化。当時の市長が病院長に赤字の解消を迫った。04年には、独自の研修制度に取り組んできた副院長も退職。市民病院が臨床研修指定病院の指定を受けられなかったことや、その後着任した病院長との間に意見の相違があったためと言われる。副院長の後を追って13人の若手医師も病院を去った。04年5月には内科医が不在となり、入院患者の受け入れを休止。その結果、04年度は10億円の赤字を計上。累積赤字は約26億円に膨れ上がった。

05年末、市長は病院の自主再建を断念。医師や看護師の数が少なくて済む療養病床に特化する方針を打ち出した。それを機に13名いた外科医や後任を務めていた病院長、副院長も病院を去った。

市長はもぬけの殻となった市民病院の経営を京都市内の民間病院に委託する計画を進めたが、医師が集まらず白紙に。05年度の累積赤字は35億円に達した。06年10月、兵庫県の民間病院に病院の運営を委託、5人の医師を確保してようやく内科の入院患者受け入れを再開した。

ところが07年2月に病院再建を公約に当選した現市長は、公立病院の存続を求める声を受けて民間委託を打ち切った。その後、民間の医師紹介業者を通じて現在は5名の常勤医師が勤務しているが、外科の入院・外来は休止したままだ。

現市長の私的諮問機関である「地域医療あり方検討会」は07年11月に舞鶴市内の公的4病院(舞鶴市民病院、舞鶴医療センター〈国立病院機構〉、舞鶴共済病院〈国家公務員共済〉、舞鶴赤十字病院〈日本赤十字社〉)を、一つまたは二つに集約する答申をまとめた。そして今年9月末、市は再編に向けた準備組織を設置、運営を調整する医療政策監や2年間不在だった市民病院に院長を置いた。病院再編は1年の討議を経てようやく動き出したかにみえる。だが、病院関係者の内心は複雑だ。再編対象となる病院の院長の一人は「われわれが上部組織を離れるのは容易ではない。4病院の統合は前例がなく、実現は難しい。未来のビジョンよりも今日の医療をどうするかで精いっぱいだ」と語る。「市の対応が遅すぎる。医師不足が進んでおり、病院の負担は増すばかり」(舞鶴赤十字病院の岡田真樹院長)との声もある。病院再編の大構想は掛け声倒れに終わりかねない。

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