東電、安全性に十分な投資ができない不安 新潟県知事インタビュー

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10月28日、新潟県の泉田裕彦知事は、ロイターのインタビューに応じ、東京電力柏崎刈羽原発(写真)の再稼働問題について「東電は安全性に十分な投資ができない不安がある」と述べた。2012年11月撮影(2013年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[新潟 28日 ロイター] - 新潟県の泉田裕彦知事は28日、ロイターのインタビューに応じ、東京電力<9501.T>柏崎刈羽原発の再稼働問題について、「立地県の立場から安全確保を最優先にしてほしいが、いまのスキームだと東電は安全性に十分な投資ができない不安がある」と述べた。

泉田知事は、現在の東電経営陣が金融機関からの融資確保やコスト低減など数多くの課題を抱えているために、安全性に専念出来ない点を問題視。「体制の分割が必要ではないか。破綻処理を行うことも選択肢の1つ」と語った。

福島第1原発の汚染水処理や廃炉、現場の作業員の処遇については「国が前面に出てやるべき。現場の人は故郷や国を守るため高い放射線量の中でリスクを冒して作業をしている。国家が尊敬の念をもって国家公務員、準公務員といった形できちんと処遇する必要がある」と指摘した。

東電は、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に向けて、原子力規制委員会による新規制基準適合審査の申請を9月下旬に行ったが、同申請で新潟県は緊急時対応設備(フィルター付きベント設備)の安全性の保証を求めることを条件としており、それに関連して新潟県は、独自に福島事故の検証を行う方針を打ち出している。今月末に始まる同検証について泉田知事は「タイムスケジュールがあるわけではない」と、時間軸は未定と説明した。

東電は、今回のインタビューに対し「決して再稼働ありきではなく、安全大前提で地元を含めた関係者の理解を得ながら取り組んででいきたいと思う」(広報部)とコメントした。

インタビューの主なやり取りは次の通り。

──新潟県が福島事故の検証や柏崎刈羽原発のフィルターベント設備設置の調査を行うという。東電は協力的に参加しそうか。

「東電は一生懸命やらないといけない状況にある。(原子力規制委への)申請書に新潟県の避難計画との整合性を取ると明記しているから、県と協議しないと(規制委への申請は)完結しない。(東電の)現場でも拒否反応があるとは聞いていない」

──県の検証調査は原子力規制委による柏崎刈羽の審査と連動するのか。検証調査の時間軸は。

「例えば福島第1原発1号機は全電源喪失から24時間で(水素)爆発している。新規制基準に当てはめると24時間の爆発は避けられるのか。県の検証作業は何らかの形で(規制委と)やり取りが生じると思う。地震によってどのような被害があったのか議論する。あらかじめタイムスケジュールがあるわけではない」

──汚染水問題が続く東電が、別の原発を再稼働させようとしていることについて知事の考えは。

「東電は首都圏を中心に電力供給し、火力発電のLNG(液化天然ガス)も安く調達する必要がある。福島の賠償、除染、汚染水対策も必要だ。(広瀬直己)社長の頭の中で、銀行借り入れ、汚染水対策、賠償、調達コスト低減などを考えている中で、安全について(思考を)割ける割合はものすごく少ない。この体制で(適切な)意思決定ができるのか極めて疑問だ」

「原発については、社長の頭の中の8、9割は安全について考えているという体制を作らないと、安全を優先することにならないのではないか」

──東電の将来について自民党議員からからいろいろな構想が出ている。福島の分社化とか「廃炉庁」とか「バッド・グッド分離」など。知事はどんな考え方か。

「立地県の立場からいうと、安全確保を最優先にしてほしい。現行スキームだと、東電の電気料金で賠償も廃炉も汚染水対策も全て賄うことになっている。安全性に対して十分な投資ができないという不安がある。いまの体制ではなく、(福島などの)分割が必要ではないかと思っている。廃炉、汚染水対策は日本だけでなく世界の問題なので、国が前面に出てやるべき」

──福島の処理に当たっている東電、柏崎刈羽を再稼働させよとしている東電。1つの組織でやるから無理が生じるということか。

「(再稼働しないと)電気料金が上昇するなどと論点がおかしな方向に行く。経営が苦しいのは事故を起こしたからであって、だからこそ安全対策が必要だ。JR北海道も経営が弱いから安全対策が手抜きになり、大きな損害を被っている。(目先の利益を)稼ぐために安全を考えなくてもよい体制を作ることは、また失敗する前兆としか考えられない」

──法的破綻処理だと電力債や政府支援の枠組み決定後の融資をどうするのか。調整は難し感じもするが。

「これは(事前準備した上で破綻した)JAL型がよいのではないか。巨大な電力債とメガバンクが貸し込んだ融資、これが塊りとしては大きいので、そこをどうするのか調整して、労働者債権や資材調達債権を保護する形で調整すればよい。東電は電気料金という日銭が入るので、ただちに支払い不能にならない。電力供給にも支障を来さないと思う」

──福島原発における作業員はどうするか。

「健康リスクにさらされて一生懸命やっている。(作業員を)下請けの単純労働者に位置づけているのがおかしい。国家が尊敬の念を持ってちゃんと処遇する必要がある。世界には460基の原発があり、廃炉作業がいずれ始まる。廃炉の能力を持てば次のビジネスチャンスにつながる可能性がある。いまは採算が合わないので、国家公務員、準公務員という形で身分保障すべきだ」

(インタビュアー:浜田健太郎、アントニー・スロドコフスキー)

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