自閉症と診断された22歳が挑む「会社員生活」 障害者手帳を携帯しての就活から現在まで

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そんな考え方から100社ほど受けたのだが、苦戦を強いられた。一般企業の障害者枠を中心に、特例子会社も手当たり次第受けた。早く決まった友人たちを横目に、なかなか就職が決まらないことに何度も落ち込んだという。

「やはり落ち込みましたね。一次面接は本当に2、3社程度しか通らなくて。 そこで二次面接に進んだとしても突破できないのです。厳しいなと思いながら、どこがいけないんだろうかとつねに考えていました。誰かに落ちる理由を聞きたかったんです。親にどうして俺は受からないんだろうと聞いたら、就活というのはみんなそんなもんだというふうに慰められました。むしろ落ちるのは当たり前だと思わないと、落ち込んでいても仕方ないよと言われました。そんな状況が続いてYouTubeを見たりして気を紛らわしていました」

周りの人の励ましを受けながら、7月の就職フェアで、履歴書などの書類を提出した結果、東京海上ビジネスサポートの合格を勝ち取った。苦闘の連続の結果ようやく手に入れた就職だった。そこで入社に至る決断をした理由を聞いてみた。

特例子会社イコール楽ではないところが決め手だった

「就職フェア内で出展している唯一の特例子会社だったんです。人事担当者に会いに行ったらつねに仕事では最高品質を求めていると。業務の質をどんどん高めていくことは、特例子会社も一般企業も同じだと共感し、ここに決めました。特例子会社イコール楽というわけではなく、成長をしていく会社という説明を受けたので、ここだったら自分の実力を遺憾なく発揮して、いいモチベーションで働けるかなと最終的には考えました」

彼の現在の仕事は自賠責保険の入力チェック業務だ。とはいえ、職業訓練を受けたこともなかった。また、仕事はもちろんのこと、会社にいるかぎりは周囲の社員ともうまくやっていかなければならない。大卒がたった1人という中、入る前と比べてどのような気持ちの変化があったのだろうか。

「覚悟を決めて入社したのですが、それでも甘かったです。細かいところで一切妥協しないとか、品質を少しでも上に、最高を求めるといった責任の重い仕事なので、そこに対するプレッシャーはあります。さらにこれからは情報処理速度、スピード感をもっと養っていかなければいけないと思っています」

新入社員は彼以外、全員が特別支援高等学校の出身だ。特別支援高等学校出身の新入社員は、学校で職業教育を受けてきている。3年間の間にしっかりとデータ入力のパソコンの業務とか、軽作業の業務などの訓練を受けてきており、本人いわく、現状では自分のスキルは年下のほかの9人より劣っているという。

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