ネットが嘘も事実にしてしまう世界の生き方 技術は生活を簡単にではなく、難しくした

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しかも個人であれ、大きな組織であれ、インターネットで情報を流す者は、うその情報を流したからといって特に失うものもない。書き込んだ物語がセンセーショナルであれば、大いに注目を浴びる。カスタマーレビューをでっちあげるのが簡単なように、ウェブサイトのページにうそを書き込むのは簡単だ。

あえてファックスを使うCEOたち

インターネットによって情報は民主化された。企業の貪欲さや政府機関の無能さが、世間の注目を集めた。貧富の差は拡大した。こうして、かつては当然だった体制に対する信頼感はもはや当然のものではなくなった。メディア対策の訓練を受けたベテラン政治家や大手ブランドに代わって、このところ目立つのは、卒直な物言いで真実を語る者や小さな企業を信頼する傾向だ。

政治の舞台でその傾向が最も如実に現れたのが、ドナルド・トランプやマリーヌ・ル・ペンといった過激な発言を繰り返す政治家の人気だろう。ビジネス界に目を向ければ、そうした世の中の流れに合わせて、大企業は自社製品の来歴やストーリーをアピールしたり、“正統的な”ブランドを傘下に収めたりする(コカ・コーラは飲料メーカーの英イノセント・ドリンクス社を買収した)。

相手が真実を話しているのかどうかを見極めることは、もちろん個人の問題にとどまらない。巧みなサイバー攻撃は、クリックひとつで企業を破綻に追い込める。そのシナリオは、いまや完全に実行可能だ。そのため、絶対安全と言える対抗策がないかぎり、インターネットを使わないと公言する者もいる。

ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントの元CEOマイケル・リントンもそのひとりだ。以前、私用メールのアドレスとクレジットカードの情報をハッキングされたことのあるリントンは、それ以来、機密のメッセージは手書きしてファックスで送信しているという。同じ手段を講じているCEOは彼だけではない。

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