米朝首脳会談を批判する人に欠けている視点 それでも行われたことに意義がある

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しかし、ここでの理想は、北朝鮮の策略が力を失うことだ。「大国に向き合う小国は時にハッタリを使う」。キューバのミサイル危機がそう教えてくれる。小国はそれに耐えられない。

平和に向けたパズルのラストピースはすでにそこにある。北朝鮮の西洋式の教育を受けた、バイリンガルの若きリーダーはおそらく自分自身を彼の国の鄧小平だと見なしているのだ。その統治権を保ちながら孤立した自分の国に未来をもたらすのだと。「われわれは・・・・・・過去を手放すことに決めた」。金委員長はトランプ大統領とともに共同声明に署名してそう述べた。

韓国・文大統領の圧倒的な存在感

今の平壌には勢いがある。休みなく成長を続ける消費主義者の中流階級は、ドルや元、そして外国メディアへのアクセスの増加によって熱を帯びる中国通貨、半市場経済の中に生きている。加えて、米国大統領は北朝鮮とともに(あるいは抜きで)既存のルールを壊そうとしている。注意深く見れば、グラスには水がまだ半分残っている。

韓国の文在寅大統領の存在も大きい。同大統領は今回の首脳会談の全体にわたって原動力となった。米政府に対して、北朝鮮には独自のトップダウンシステムがあり、それに従う必要があると納得させた。4月27日に開催した金委員長との会談が、今回の米朝首脳会談のもととなった。

トランプ大統領が5月24日、シンガポール会談をキャンセルした時には文大統領はワシントンと板門店を行き来してプロセスが再び前進するよう尽力した。世間が引き続き戦争に対して不安を口にする中、とても大きな舞台で優れた外交手腕を発揮したのである。

歴史上でこのような仲介者がいた核交渉はこれまでなかった。文大統領の継続的な言動(誠実な交渉人であり、朝鮮の同胞であり、共通する文化、言語、歴史そして感情的な結びつきを持つと同時に、米国の同盟国であり、金委員長とトランプ大統領双方にとって非公式のアドバイザーでもある)は次のステップのカギを握っている。文大統領は、かつて交渉の破綻の原因であった諸問題を解決するためにうってつけの人物なのである。

シンガポールで「行われなかったこと」も重要だ。トランプ大統領は北朝鮮に対して「備え」を与えなかった。事実、トランプ大統領が与えられる備えはなかった。米国はこれまで戦略として見送ってきた韓国との軍事演習の延期に合意し、いつでも再開できるとした。

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