景気低迷や大型買収の影響でネガティブな格付けが増加《ムーディーズの業界分析》


コーポレートファイナンスグループ
SVP・リージョナル・クレジット・オフィサー 大槻 栄美子

日本の事業会社

 2008年第3四半期には、格下げこそなかったものの、ネガティブな格付けアクション(7件)がポジティブな格付けアクション(5件)を超えた。総じて、ネガティブな格付けアクションが増加傾向にある。これは、原燃料価格の上昇、景気低迷、対ドルやユーロでの円高、株式市場の低迷などにより、日本の事業会社の業績見通しに不確実性がさらに高まっているからである。

 このような状況が続けば、日本企業の業績は更に悪化する可能性があり、今後ネガティブな格付けアクションは増加する可能性がある。とはいえ、多くの格付け対象の日本企業は、過去6年間に収益力や財務体質を強化しており、直近の厳しい事業環境による影響を緩和するだけのクッションを持っている。

 また、負債調達での大型企業買収が引き続き増加していることも、ネガティブな格付けアクションの増加の一因となっている。2008年9月下旬までの格下げは3件(すべて第1四半期)であるが、2007年の1年間で格下げが2件あったことと比較して、大幅に増加している。また、現在4件が格下げ方向で見直し中である。

 一方、2008年9月下旬までの9カ月間に、ムーディーズは11件の格上げを行った。2007年9月末までの格上げ件数34件と比較して、大幅に減少している。日本企業の業績が引き続き下方圧力にさらされているため、今後の業績の推移は、格付けの見通しにも影響を与えることになろう。

 原油価格の高騰により、家計消費支出を低迷させている。また、大幅なコスト高、コストの価格転嫁までのタイムラグ、景気減速による需要減退が、企業の業績の足かせになっている。原油価格は、8月以降下落傾向が続いていたが、ここ数週間で大きく変動している。また、円高(対米ドルや対ユーロ)や需要減少は、企業の収益力に下方圧力を加えている。

 最近の金融市場の混乱が、日本の金融機関に与える直接的・間接的影響や、更には日本企業への与信姿勢に及ぼす影響などを、ムーディーズは引き続き注視していく。(2008年9月に発行したスペシャルコメント「ムーディーズ、リーマンへのエクスポージャーによる邦銀のリスクについてコメント」)を参照されたい。

 現在、ムーディーズの格付け対象債権の約95%にあたる約3,165億ドルの格付け見通しが安定的である。

世界の事業会社発行体

 世界の事業会社発行体は、金融市場の新たな混乱の影響を受けており、特に消費者に製品やサービスを提供する企業が最も大きな影響を受けている。

 大手金融機関の破綻や信用市場と株式市場の深刻な混乱により、投資家の信頼感は新たなショックの影響を受けやすい状況にある。市場の混乱が、与信枠の利用可能性や利用条件、企業景況感と消費マインド、世界の経済成長に与える影響は続くとみられ、事業会社の信用力低下をもたらす要因のトレンドに、さらに拍車をかけている。

 消費者は既に支出を抑える姿勢を強めている上、与信の厳格化の影響を受けるとみられる。先進国の大半は、消費者関連セクターが経済の大きな部分を構成しているため、売上高と利益率へのマイナスの影響が広がり、事業会社のデフォルト件数を押し上げるとみられる。

 住宅、自動車、耐久消費財などの消費者の選択的消費と与信に依存するセクターが、最も大きな影響を受けよう。すでにこれらのセクターでは、格付け見通しがネガティブあるいは格下げ方向で見直し中の発行体の占める割合が、最も高くなっている。

 消費マインドと企業景況感も、少なくとも今後数四半期は回復しそうにない。消費マインドの悪化は投資と消費の減少を招き、世界の経済成長の減速につながる。特に、世界経済生産高の半分以上を占める米国、欧州、日本の3地域において、消費支出の見通しは暗い。

 また、オーストラリア、シンガポール、韓国など、他の多くの国でも消費支出は弱含んでいる。力強い成長を示す国の企業も、輸出の減少、株価下落による逆資産効果や、金融システムにおける負債調達による投資を削減しようとする動きの中で、流動性の制約の影響を受けるだろう。

格付け見通し
ネガティブ・格下げ方向で見直し中の発行体が占める比率が高い10セクター
業界 2008年第3四半期 2007年第4四半期
  格付け見通しネガティブ・
格下げ方向で見直し中
格付け見通しネガティブ・
格下げ方向で見直し中
航空 65% 8%
住宅建設 58% 40%
新聞 57% 24%
レストラン 53% 29%
カジノ 46% 20%
建材 45% 25%
アパレル 43% 23%
陸運 41% 27%
耐久消費財 41% 31%
自動車 38% 11%

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