京急の「テロ対策訓練」は、徹底的にリアルだ JR東海もさまざまな訓練を行っているが…

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JR東海(東海旅客鉄道)は日頃、どのような訓練を行っているのだろうか。6月5日には、営業運転が終わった深夜の時間帯に本線を使って車掌やパーサーが乗客をほかの列車に乗り換えさせる「異常時対応訓練」が行われた。このほかにも、車両基地に運輸・車両・施設・電気など各部署から総勢1000人を超える社員が集まり列車火災、脱線、架線切れなどさまざまな事態に対処する「総合事故復旧訓練」が毎年実施されている。

6月5日深夜に三島駅近くで行われたJR東海の異常時対応訓練(撮影:尾形文繁)

2016年の訓練は走行不能になった新幹線を、救援に駆け付けた新幹線が牽引走行する「32両連結」という大掛かりなものだった。

また、都内にある総合指令所にトラブルがあった場合に備え、大阪にあるバックアップ施設による列車の運行管理も年1回実施している。普段は乗務員や駅員をしている社員が、この日は指令員として指揮を執る。

車内での不審者対応についても訓練が行われている。「乗務員は携帯しているかばんや座席シートから外した着座部分を使って、相手と距離を取りながら防御する」(同社広報部)というものだ。

国が指針を打ち出すべき

これだけ多種多様な訓練を行っていても、6月9日の殺傷事件を防ぐことはできなかった。今後の対策として、JR東海は車内を巡回する警備員を増員したほか、警察官が列車に乗車して警戒する「警乗」の頻度も上げる方針で、沿線の各警察と協議しているという。手荷物検査の導入については、「利便性を損ねる」として否定的だ。

車掌が座席シートの着座部分を使って、ナイフを持つ不審者から身を守る訓練(写真:JR東海)

国土交通省は有識者や鉄道各社によって構成される「鉄道の輸送トラブルに関する対策のあり方検討会」を今年2月にスタートさせた。輸送障害の再発防止対策、輸送障害の背景にあると考えられる技術伝承、組織体制など構造的な問題への対策に加えて、昨年12月に起きた台車亀裂の再発防止対策も盛り込まれている。

会議はすでに3回開催されており、夏をメドに取りまとめが行われる予定だが、この機会にテロ対策のあり方についても議論すべきではないだろうか。安全と利便性のどちらを優先させるのか、あるいは両立させる方法を探るのか。個社の対応だけでなく、国の判断も求められる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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