「人間のくず」ボルトンが米朝会談を左右する 制裁強化を主導した人物は会談に同席するか

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場合によっては核弾頭やICBMの一部を米国側に引き渡すと明言するかもしれない。ここまでやればトランプ氏も「俺がアメリカと世界を安全にした」と言い切れる。どこまで北朝鮮に譲歩させるかトランプ氏の腕の見せ所だろう。

北朝鮮がCVIDである程度譲歩すれば、米国は体制の保証につながる措置を取ることになる。米国国務省利益代表部の設置や、現在休戦中の朝鮮戦争の「終戦宣言」だ。

トランプは「終戦宣言」に意欲

残念ながら韓国メディアは、「終戦宣言の可能性は低くなっている」とする韓国大統領府高官の話を伝えている。終戦宣言は、あくまで政治的なもので、北朝鮮を安心させる手立てにすぎない。とはいえ12日の会談の成果が思わしくないとの観測が流れているため、安易に終戦宣言を出すべきでないとの声が、トランプ政権の中にも強まっているという。

ところが、訪米した安倍晋三首相との首脳会談後に共同記者会見したトランプ大統領は、12日の首脳会談で終戦宣言に合意する可能性があると突然言及し、関係者を驚かせた。メディアの中には、「緊急速報」で伝えたところもある。

トランプ大統領は、米朝の2国間で終戦を誓い合うことで北朝鮮の譲歩を引き出す一方、「朝鮮戦争を終えた歴史的会談」と世界にアピールする考えなのだろう。

終戦宣言を韓国、北朝鮮、米国で出すアイデアは、筆者が知る限り、韓国政府の発想だが、トランプ大統領は文大統領を抜きにして宣言を実現し、完全に自分の手柄にするつもりのようだ。

終戦宣言はできないにしても、米朝の合意文の中に「相互の主権を尊重し、平和的に共存すること」などと書き込むことで終わるかもしれない。これは2005年9月の6者協議で出された共同声明と同じ内容であり、問題にならないだろう。本当の終戦宣言は具体的に非核化に動き出してからになる。

板門店宣言では、「今年中に終戦宣言を出す」としているので、7月27日の朝鮮戦争の休戦記念日、遅くとも北朝鮮の建国記念日である9月9日までには実現させる見通しだが、今回終戦宣言が出されないと、失望した北朝鮮は非核化を渋るかもしれない。米国としては、それはそれで避けたいところだろう。

五味 洋治 東京新聞 論説委員

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ごみ ようじ / Yoji Gomi

1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞東京本社入社。韓国・延世大学に語学留学の後、1999年から2002年までソウル支局に勤務。2003年から2006年まで中国総局勤務。この間、2004年に北京国際空港で金正男に偶然会ったことからメールのやり取りが始まり、のちに単独インタビューを実現させる。2008年8月から10カ月間ジョージタウン大学にフルブライト留学。現在は東京新聞論説委員。著書に『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)など。

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