セルジオ越後、「危機の日本代表」をなで斬り 本当に強いチームになるために必要なこと

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残念だったのは中島翔哉(ポルティモネンセ/ポルトガル)の落選ですが、これは似たポジション、似た役割の宇佐美貴史、原口元気(いずれもデュッセルドルフ/ドイツ)、乾貴士(エイバル/スペイン)らとの力関係において、中島は下だと判断されたのでしょう。

西野監督は4月下旬から5月上旬に欧州視察を行ったけれど、中島のところには訪れていないんですね。すでに構想に入っていなかったんだと思います。おそらく中島は、ハリルホジッチの構想に入っていたでしょうから、監督交代によってワールドカップ出場を逃した選手のひとりでしょう。

――「ビッグ3」と呼ばれ、ハリルホジッチ前監督に冷遇されていた本田圭佑(パチューカ/メキシコ)、香川真司(ドルトムント/ドイツ)、岡崎慎司(レスター/イングランド)の3人もメンバーに選ばれました。

彼らは、選出してくれた西野監督の信頼に応えるべく、ものすごく高いモチベーションで合宿に臨んでいることと思いますが、香川と岡崎は直前までケガをしていたから、コンディションや試合勘に不安が残ります。メキシコで試合に出ていた本田も、3月のウクライナ戦でのパフォーマンスはパッとしなかった。

かつてないほど難しい状況でワールドカップを迎える以上、本大会における彼らの経験はチームにとって貴重なものですが、彼らはここ最近、代表チームで活躍しているわけではないから、以前のように絶大な存在感でチームを牽引できるかどうかは未知数です。ワールドカップの結果が振るわなければ、日本サッカーは非常に苦しい立場に追い込まれる。長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)、長友佑都(ガラタサライ/トルコ)も含め、経験のあるベテラン選手たちには意地を見せてもらいたいですね。おそらく最後のワールドカップになるでしょうから。

日本が本当に強くなるために必要なこと

――決勝トーナメント進出の可能性は、どれくらいあるとお考えでしょうか?

非常に厳しいことは間違いないですが、ワールドカップのグループステージでは戦術や実力と同じくらいコンディショニングやチームとしての一体感が問われるところがあります。それがうまくハマり、初戦のコロンビア戦で勝点が奪えれば、勢いに乗れるかもしれません。本田のゴールでカメルーンを下し、チーム状態が一気に上向いた、2010年の南アフリカ大会のように。

セルジオ 越後(せるじお えちご)/1945年ブラジル・サンパウロ市生まれ。日系2世。18歳でサンパウロの名門クラブ「コリンチャンス」とプロ契約。1972年に来日し藤和不動産サッカー部(現・湘南ベルマーレ)に所属。エラシコというフェイントの創始者といわれる。写真は2017年11月(撮影:今井康一)

ただ、日本が本当に強くなって、毎大会ベスト16やベスト8に進出できるようになるまでには、さまざまな障壁があります。

選手の育成や指導者の養成を抜本的に見直す。学校の部活を廃止して地域のクラブでスポーツを楽しむようにする。補欠をなくして選手の分母を増やす。

そういった根本的なところから取り組まなければなりません。今回の解任劇によって、もうヨーロッパの良い監督は来てくれないんじゃないか、などというのは小さな問題。日本代表を本当の意味で強くするのは代表監督ではなく、日本サッカー界全体の問題だし、もっと言えば、日本のスポーツ界全体、日本のスポーツ文化の問題なんです。

世界と戦う環境が整っていないから、いつまで経っても世界で勝てない。その事実から目をそらしてはいけません。今のままでは勢いで勝つくらいしか方法がないのです。

(文中敬称略)

飯尾 篤史 スポーツライター

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いいお あつし / Atsushi Iio

東京都出身。明治大学卒業後、サッカー専門誌の編集記者を経て2012年からフリーランスに転身、スポーツライターとして活躍中。『Number』『サッカーダイジェスト』『サッカーマガジン』などの各誌に執筆。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成に岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(ベスト新書)などがある。

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