麻生の「全治3年」福田の「全治3年」

麻生の「全治3年」福田の「全治3年」

塩田潮

 11月総選挙を決意した上で選挙対策用に追加経済対策などを掲げようとしているのか、それとも解散誘導戦略によって対決回避の方針を取る民主党を欺き、総選挙を棚上げで点数を稼ごうとしているのか、麻生首相はいまだに手の内を明かさない。

 「日本経済は全治3年」と麻生首相は叫ぶ。世界的な金融危機などで日本経済は病気となり、回復に3年が必要で、治療ができるのは「景気の麻生」だけと訴えている。この「全治3年」の標語は、実は福田赳夫元首相の有名な言葉からの借り物である。福田氏は第一次石油危機が襲った1973年秋に急遽、田中内閣の蔵相に就任し、経済運営と経済政策の全権を握った。その際に「日本経済は全治3ヵ年」と宣言する。狂乱物価と超インフレに見舞われた日本経済を根本治療するのに総需要管理政策を打ち出したのだ。同じ「全治3年」でも麻生首相の治療方法は正反対で、需要追加の景気対策が柱だ。福田氏は「ばらまき型の経済拡大路線」を阻止したという意味で画期的だったが、麻生首相は旧来型の自民党政治への回帰の要素が強く、禁じ手への甘い誘惑に乗ろうとしている面もある。

 その是非の議論も重要だが、「全治3年」を唱える麻生首相の魂胆も見逃せない。向こう3年、政権を担い続け、経済を立て直して、そこで消費税増税も実現というシナリオを夢想している。3年の間には次期総選挙と2010年の参院選があるが、参院選で衆参同日選を仕掛けてねじれを解消と算盤を弾く。だが、もちろん「捕らぬ狸の皮算用」だ。

 「全治3年」は、福田氏の時代は国民を動員して日本経済の危機克服に総がかりで取り組む際の達成目標の役割を果たした。だが、麻生首相の場合は、選挙用のスローガンにすぎない。政権維持のためのお題目では、国民は危機感も共感も持たないのではないか。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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