若手経営者が挑む福井発のIT革命、携帯ブラウザ・jig.jpの挑戦

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もう一つ、福野が起業した当時からずっと力を入れているのが、人材の育成だ。

「何で、ここにゼロが入ってるの。このプログラムは、こう書かないとうまく動かないよ」「RGBをうまく使って、画面に黄色を表示してみて」。週1回開かれる福井高専の「IT研究会」。20名程度の同好会だが、福野は講師として、後輩にプログラミングを教えている。プログラミングを教えるのは学校だけではない。ジグジェイピーとして、毎年インターンシップを実施。学生を積極的に受け入れて、ソフト開発の現場を体験させているのだ。

実は、こうした取り組みによって、福野に親近感を持ち、卒業後はジグジェイピーに入社する高専生は後を絶たない。実際、ジグジェイピーの開発メンバーの多くは福井高専の出身者である。ただし、福野自身は最初から人材の囲い込みを狙って、学生を指導しているわけではない。むしろ、「ほかの面白い会社に就職したり、自ら起業したりしてもらったほうがうれしい」と語る。「今は会社という後ろ盾がなくても、個人で何でも作れる時代。ただ、そういうことは学校にいても教えてくれないんですよ。だったら、私たちのような経験者が学生に機会を提供して、彼らが新しいことや面白いことを生み出す原動力にしたいんです」。

いくら新しいことや面白いことをやろうと思っても、ジグジェイピーだけの取り組みでは、アイデアも経営資源もおのずと限界がある。そこで、福野が目指しているのは鯖江のシリコンバレー化だ。

本場・米国のシリコンバレーでは、新しいアイデアや技術を持った優秀な人材やベンチャー企業が次々に誕生している。さらに、彼らは切磋琢磨し、よりよい商品や面白いサービスを生み出している。鯖江でもその土壌を作ることができれば、企業や市民、ひいては鯖江の町全体が活性化すると考えているのだ。

福野の試みは少しずつではあるが、実を結び始めている。福野が指導したこともある高専生の企画が、独立行政法人情報処理推進機構が実施する若手育成プロジェクト「未踏IT人材発掘・育成事業」(2008年度上期分)に採択されたのだ。応募総数190件のうち、採択されたのはわずか18件。しかも、採択者の中心は大学院生であり、高専生は珍しい。過去、このプロジェクトは新しいプログラミング言語「Ruby(ルビー)」を開発したまつもとゆきひろなど、IT業界の大物を輩出している。選ばれた高専生にも大きな期待が寄せられている。

「自分の住んでいる町なんですから、生活をよくしたいじゃないですか」。福野の鯖江に対する愛着は人一倍強く、鯖江市の発展のためなら労を惜しまない。たとえば、一般の人にもITに興味を持ってもらうために、鯖江市内でプログラミング教室を開設。また、地元企業家の交流を目的とした合同会社「鯖乃家」の中心メンバーとして、鯖江市民や学生向けにITの講演会を開催するなど、精力的な活動を行っている。

行政・学校も支援 ITでの街づくり

こうした福野の熱意は母校である福井高専や鯖江市の行政をも動かした。両者は起業家の支援に本格的に動き出したのである。

福井高専は昨年、高専としては初めてとなる「アントレプレナーサポートセンター」を設置した。センター入所者は起業に必要な事務スペースのほか、企業経営者、専門家からのアドバイスなど、さまざまな支援を月4600円という、格安の価格で受けることができるのだ。

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