インド自動車市場、急成長の小型車で激突するホンダとスズキ


 世界がナノに夢中になっていた今年春先も、武田川雅博・ホンダシェルカーズインディア社長は、どこか冷めていた。

「手頃で手軽で燃費がいい2輪車に、ナノはかなわない。すでにクルマを持っている高所得層がわざわざナノを買うとは思えない」

ホンダはこれまで、市場を“上”から攻めてきた。全長ごとにA1からA5に分類されるインドで、上から三つ、すなわちA5プレミアム、A4エグゼクティブ、そしてA3ミッドサイズ領域でホンダは主要な地位を占めてきた。A5は「アコード」でシェア38%、A4は「シビック」で33%と首位。A3でもモデル末期だった「シティ」の3代目を9月25日に発表、近く首位に返り咲くとみられている。

ただ、目下の最大市場はA3の一段下であるA2コンパクト(全体の7割以上を占める)。マルチスズキの「アルト」「ワゴンR」を筆頭に、最近ではやはりスズキの「スイフト」や現代自動車の「i10」などが続々投入され活気づいている。「ホンダは過去10年、いわば上澄みだけで商売してきた。いよいよ残りの市場に出る」。そう武田川氏は折に触れ発言し、それは「ジャズ」(日本名「フィット」)だろうとみられていた。そして9月26日、インド北部ラジャスタン州タプカラ工業団地の4輪車第2工場の一部開所式。その席上、2009年半ばのジャズ投入を正式に発表した。「実は、ちょっと無理した」と武田川氏。「ざっと1年くらい前倒ししたんです」。

ホンダが食らった強烈なハンディ

これまでインド政府は、小型車を露骨なまでに優遇してきた。本来24%かかる物品税を、2年前、全長4メートルかつ排気量1・2リットル未満(ディーゼルは1・5リットル未満)の小型車に限って16%に下げ、今年さらに12%へ下げた。6月には全長4メートル以上で排気量1・5リットル以上のクルマに1・5万ルピー、2リットル以上には2万ルピーの追加税賦課を発表。たまらないのは中~上位機種しかないホンダ。だから「ちょっと急いだ」。

10車種以上がひしめくA2コンパクト車市場で、武田川氏が強烈に意識するのはスズキのスイフトだ。05年に発売して大ヒット。排気量1・3リットルだから追加税のあおりを食ったクチだが、今4~8月も販売は40%増と勢いは止まらない。

注目はジャズの価格だ。「ジャズは6割方シティと共通の部品。つまり価格80万ルピーのシティとコストでは変わらない。ただ、インドでは12%の優遇税制を受けられるため、そこそこの値段、60万ルピー台くらいで戦える」。約50万ルピーのスイフトと10万の差はあるが「スイフトは確かに格好いいが、ジャズは格好よくて、広くて、走りもよくて、言うことないでしょ」。

年間7000台のホンダ車を売っている大手ディーラーのサラブディープ・S・ラリー氏は「お客もインターネットや報道などですでにジャズ発売を知っていて、特徴や価格やエンジンサイズを詳しく聞いてくる。新シティとジャズで販売台数をさらに増やせる」とご機嫌だ。

「3~4年早くジャズを出していれば、ホンダはインドでもっと成功していたはずだ」。月刊誌『ビジネス・スタンダード・モータリング』のスリニヴァス・クリシュナン副編集長は指摘する。「(独フォルクスワーゲン子会社で中~上位機種が多い)シュコダがA2の『ファビア』を出したとき、人々はシュコダの小型車というだけで飛びついた。ジャズも同じことになるだろう。私も自分用に“スモールホンダ”を1台欲しいからね」(笑)。

「金融危機以上に考えなくちゃいけないのは、原油高であり原材料高。コストを考えると大きなクルマは時代に適合しない」。日本からタプカラに駆けつけた福井威夫ホンダ社長は、現地メディアを前に新・小型車構想をあらためて口にした。

「T型フォードから100年目にして時代が変わった。原材料をたくさん使った大量生産、ガソリンをガブ飲みするクルマで自動車産業は発達してきたけれど、これからはスモーラーカーの時代。ホンダのラインナップでも、ジャズがいちばん下という時代から、さらに下のクルマが必要になる」

「インドだけではなく世界中のマーケットに向けて研究中。タイ、中国、欧州、南米。軽自動車の恩典(優遇税制)がなくなれば、途端に日本も(想定市場に)なるだろうね」

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