ビットコイン下げ止まりの兆し、再上昇も? 背景には何があるのか、再波乱はないのか

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では、なぜ当局は規制を強化したのか? 冷静に考えてみたい。金融庁が立ち入り検査を実施したのは、コインチェック事件が深刻なシステム問題を伴っていたことが背景にあるだろう。実際、立ち入り検査の結果、利用者保護やAML(アンチ・マネーロンダリング)の観点から、多くのみなし業者において、システム不備や不正取引が発覚した。また、複数の登録業者も行政処分を受けている。さらに、フェイスブックが仮想通貨の広告を規制した背景には何があったのか。これは「筋の通ったICO」と「詐欺的なICO」「利用者のリスクコントロールが難しいICO」との見分けが付きにくく、そのため利用者保護のため禁止したという事実がある。利用者保護のため、筋の通ったICOまで規制されてしまうのは問題だが、それだけリスクの高いICOに関する広告が蔓延していたというわけだ。

つまり仮想通貨に対する規制強化の背景には、世界的な仮想通貨利用者の保護が存在している。当局の基本的な考え方は、コインチェック不正流出事件が発生する前からさほど変わっていない。当局は仮想通貨事業者に自主的に高い意識を伴った「利用者保護」「AML」を求めていたが、結果として裏切られたわけだ。仮想通貨事業者は、利用者だけではなく当局の信頼もなくしてしまったことから、規制が強化されるのは致し方ない。

信頼を取り戻すには

仮想通貨事業者が失った信頼を取り戻すのは並大抵ではない。できることからコツコツと取り組むしか道はないだろう。まずは「利用者保護」と「AML」といった基本的なことから始めるほか、当局から求められていた、自主規制ルールの制定をしっかりと進めることだと考える。4月23日に発足した「日本仮想通貨交換業協会」が、金融庁に自主規制団体として認定されれば、業界としての信用・信頼はある程度回復するだろう。申請には2カ月ほどかかることを考慮すると、認定されるのは早くて夏頃になりそうだ。

それでも、仮想通貨の利用者にとっては、今後、業者がこの「日本仮想通貨交換業協会」に加入しているかどうかが、業者選別の際の重要な基準となるだろう。明確な基準を設定することで、取引所に対する不安で躊躇している利用検討者の参加も期待できそうだ。私も金融業界出身の仮想通貨事業者の一人として、銀行や証券など既存の金融業界で当然と思われていることはすべて対応していきたい。

また近々、当局がコインチェックによる不正流出事件の総括を行うと思われる。その際、私は今一度その内容を見極めたいと考える。これは事業者としての側面よりも、金融に携わった人間としての意見だ。規制強化をネガティブにとらえるムードはまだまだ残っていることから、仮想通貨は、総括が発表されたタイミング(初動)で大きく下落する可能性もありそうだ。

たとえば足元90万円台前半で推移しているビットコインでいえば、上記のようなニュースで80万円台前半まで調整するかもしれない。しかしながら、規制強化は仮想通貨業界には必要と考えていることから、下げの局面では押し目を狙いたいところだ。あくまで短期的なイメージだが、日足のボリンジャーバンド(30日移動平均)の-2σが位置する85万円で下げが一服、その後は反発し2月から3月の戻り高値125万円どころをとらえにいくパターンを考えている。

田代 昌之 マーケットアナリスト

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たしろ まさゆき / Masayuki Tashiro

北海道出身。中央大学文学部史学科日本史学科卒業。新光証券(現みずほ証券)、シティバンクなどを経てフィスコに入社。先物・オプション、現物株、全体相場や指数の動向を分析し、クイック、ブルームバーグなど各ベンダーへの情報提供のほか、YAHOOファイナンスなどへのコメント提供を経験。経済誌への寄稿も多数。好きな言葉は「政策と需給」。ボラティリティに関する論文でIFTA国際検定テクニカルアナリスト3次資格(MFTA)を取得。2018年にコンプライアンス部長に就任。フィスコグループで仮想通貨事業を手掛ける株式会社フィスコデジタルアセットグループの取締役も務める。

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