米国は2019年に景気後退に入る可能性が高い BNPパリバの米国チーフエコノミストに聞く

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――トランプ大統領はまた何かサプライズを起こすのでしょうか。

モーティマリー:大いにありうることだ。トランプ大統領が米国内の法案に与える影響は限定的だ。なぜなら、共和党は上院の可決で必要となる60票を満たしていないからだ。彼が政治的に何かをやるとしたら、それはもっと大きな領域、つまり貿易、外交においてということになる。ここで他国から大きな譲歩を勝ち取り、「私はオバマがやらなかったことをやったぞ。だから秋の米国議会の中間選挙では共和党に投票してくれ」と言うだろう。「私は米国の面倒を見るタフガイだ」と。そうした中で、トランプ大統領は日本に円安批判をぶつけるかもしれない。ドイツには貿易赤字に対する批判だろう。彼がどこまでやるかは知らないが、プッシュし続けるのは間違いない。

ホワイトハウスで大統領にアドバイスをしている人を見ればわかることがある。「中国による死」という著作を持つピーター・ナバロ(大統領顧問で国家通商会議トップ)を筆頭に、ウィルバー・ロス(商務長官)、ロバート・ライトハイザー(米通商代表部<USTR>代表)らが、反中国の政策を主導している。中国通信機器メーカーのZTE(中興通訊)を標的とした政策は米国だけでなく英国にも広がったが、正直言って、米国や欧州では中国に対する恐怖とパラノイアが増している。

――トランプ大統領は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨体IT企業も標的にするのでしょうか。

モーティマリー:そうだと思う。GAFAはプライバシー問題を抱え、標的にするのは簡単だ。「税金を払っていない」と攻撃すれば、支持者にアピールできる。逆にGAFAはトップマネジメントの出番だ。このままでは、広告収入が減って、対応のためのコストが増える。明らかに収益や株価にマイナスだ。

パウエル議長の危機管理能力に疑問も

――2月に就任したFRBのジェローム・パウエル新議長をどう評価しますか。

モーティマリー:これまでFOMC(米連邦公開市場委員会)ではよい仕事をしていたと思う。ただ、金融政策策定に貢献したという意味ではない。彼は法律家であり、エコノミストではない。リーマンショックの時のバーナンキ議長は、大恐慌や日本の長期停滞を研究したエコノミストであり、金融政策策定における主役だった。だが、今後FRBが金融ショックに直面した際、パウエル議長はどう対処するのか。彼は優秀なエコノミストを引き連れたチームのよいマネージャーかもしれないが、今後FRBがどう金融危機をハンドリングするかは大いに疑問だ。

――パウエル議長とトランプ大統領の関係はどうなりますか。

モーティマリー:トランプ大統領は高金利を望まない。行きすぎたものにはならないと思うが、今後FRBに対して圧力を増すだろう。というのも、トランプ大統領の次の大統領選挙は2020年だ。先ほど話したようにただでさえ、2019年には米国経済は減速し始める可能性が高い。トランプ大統領はFRBの金利引き上げが景気後退の原因となることを嫌うはずだ。

――トランプ大統領は2020年の大統領選挙に勝てますか。

モーティマリー:そのときの経済状態に依存する。今年9月の米国議会の中間選挙で、民主党が下院を支配するようになる可能性が高く、トランプ大統領の最後の2年は厳しいものになる。さらに経済もスローダウンする。2020年は彼にとって非常にチャレンジングだ。ただ、民主党に有力な大統領候補がいないことはトランプ大統領にとって追い風になる。民主党の大統領候補は、バーニー・サンダースにしろ、ジョー・バイデンにしろ、みんな70代の年寄りだ。誰が民主党の大統領候補になるのかが、今回の選挙で非常に重要なカギになる。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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