ドコモが自社契約者を「優遇しすぎない」理由 他社に比べて少ない「ドコモユーザー限定」

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近年のドコモの戦略は他社と比べて、少し異質だった。ソフトバンクは同じグループのヤフーが展開するネット通販などで高いポイント還元を提供するなど、自社ユーザーを優遇する施策を実施。楽天は自社のサービスをたくさん使うほどポイント還元率を高くする「スーパーポイントアップ(SPU)」という仕組みを採る。来年始まる自社基地局によるMNO(移動体通信事業者)サービスでもSPUでユーザーの囲い込みを狙うとみられる。

KDDIのauでは、自社ユーザー限定サービスを多数展開している。音楽配信の「うたパス」や、コミックや雑誌などの電子書籍が読める「ブックパス」は、他の通信キャリアのユーザーは一切使えない。こうした各社の施策は、「自分たちだけ」というお得感を感じてもらえるほか、契約を継続させる狙いがある。

視線の先には次世代通信「5G」

一方のドコモでは、露骨に自社ユーザーを優遇するサービスは少ない。英パフォームグループのスポーツ動画配信「DAZN(ダゾーン)」は、ドコモユーザーは月額980円(税抜き)、その他のユーザーは1750円(同)だが、これは日本で最大の携帯契約者数を持つドコモユーザーを深堀りしたいパフォームの意向があるため。大半のサービスは、あえて「キャリアフリー」を掲げている。

ドコモの吉澤和弘社長は4月末の決算会見で、「回線で縛ると顧客基盤は絞ったものになる。もっと広く考える」と述べ、会員重視の戦略を加速させる方針を示した(記者撮影)

ドコモが今後一層の強化を図るというdポイントクラブでも、携帯電話の回線契約をはじめとするドコモのサービスを使うほどポイントの還元率が高くなる、といった優遇は少ない。こうした手法は囲い込みの力は弱い一方、ほかの通信会社のユーザーでも、不公平感を感じにくいということを意味している。

現在の4Gより通信速度が100倍以上になる次世代通信規格「5G」が、日本では2020年にも商用化される。5G時代には、動画配信などコンテンツ系のサービスをスマホで楽しむ流れが一段と加速しそうだ。加えて、スマート家電や自動運転など、携帯電話事業の外にも大きなビジネスが広がっていくとみられる。ドコモは回線契約にとらわれて、こうしたサービスの商機を狭めたくない考えだ。

ドコモのある幹部は、「携帯電話の回線領域は今後、顧客基盤が縮まることはあっても広がることはない。そうした中でどう戦うかを考える必要がある」と現状を分析し、「会員という考え方であれば、ほかの通信会社のユーザーも含めてつながっていける」と強調する。dポイントの会員基盤を起点に、回線以外のサービスの拡大に結び付けていきたい思惑がある。

海の向こうの米国では、携帯電話事業首位のベライゾン・コミュニケーションズが米ヤフーを買収し、同2位のAT&Tが米メディア大手、タイム・ワーナーの買収手続きの途上にある。”回線ファースト”を脱するドコモも、今後はコンテンツプロバイダーとしての色が強まるかもしれない。他方で、競争領域が業界の垣根を超えているからこそ、楽天のような囲い込みを重視する考え方もある。自社経済圏か、オープン戦略か。成否を決める戦いが始まろうとしている。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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