33歳「ヴィジュアル系」の彼が抱く生きづらさ 適応障害、うつ病…バンドをやめて裏方に回る

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結局、大学は2年間の就職留年をした。公務員以外に金融系も受けたが、当時リーマンショックが起こった年で景気が悪く、どこも受からない。次第に彼の体に変化が起こり始めた。毎日37.5度の微熱が続いて体がだるい。病院を受診したところ、適応障害の診断が下りた。

適応障害とは、ある特定の状況や出来事のストレスにより、心身に不調が表れる障害だ。適応障害で処方されたデパケンという薬も合わず、急に異常なほどテンションが上がって、街中でアニメ『聖闘士星矢』の主題歌を大声で歌ってしまうような奇怪な行動を取ってしまったこともあった。

なかなか内定が出ないが、生活のためには働かねばならない。アルバイトで塾講師をした経験から、小さな学習塾を受け正社員の内定をもらい就職。この塾でKenchangさんは仕事のできない自分に気づく。

「とにかくマルチタスクがまるっきりダメです。塾の仕事は生徒に教えるだけでなく、新規開拓もしないといけないんです。入塾させないといけない人数のノルマがあり、新規開拓をしつつ既存の生徒の成績を上げるという二重の業務が、どうしてもできませんでした。

また、人の間に入って仕事の調整をするのも苦手です。上司から生徒A君の成績を上げるよう言われたので、遅くまで指導していたら保護者から『なぜこんなに遅くまで帰れないのか』とクレームがきて、上司には『言われたとおり、成績を上げようと教えましたよ』と言うと『お前のやり方は間違っている』と怒られる。そんな日々が続いていたので、次第にうつの症状が強くなり、微熱も毎日ある状態でした」(Kenchangさん)

傷病手当金をもらって休職するという手を取らなかったのかと聞くと、そのようなことを教えてくれる総務担当もいない、社員を使い捨てにするような会社だったという。退職願を出しても、次の人が見つからないからと半年間辞めさせてもらえなかった。要するにブラック企業だ。28歳のとき、ようやく塾を退職。会社員を辞めて、もう人生終わったも同然だと思い、どうせなら好きなことをして生きようと決めた。そして、バイトをしながら自分が本当にやりたかったバンド活動を始めた。

「みんなやっているから当たり前」と思える人がすごい

しかし、人の間に入って調整を行ったり、マルチタスクが苦手だったりすると、チームプレイであるバンド活動も厳しいのではないだろうか。

「衝動性から、たまにTwitterでの発言で炎上してしまうことが、今まで何度かありました。だから今は、何かをツイートする際はメンバーに『こういうツイートしてもいいかな?』と相談してからツイートするようにしています。メンバーが僕のことを理解してくれているのでとても助かっています。

また、僕がバンド活動を始めた当初は地下アイドルブームで、『地下アイドルをプロデュースして一儲けするぞ!』と思って衝動的に動いたのですが、結局失敗しちゃいました。

マルチタスクが苦手なので、メンバーで役割分担をして、僕は得意な作曲や動画編集を担当しています。過集中特性があるのか、作曲をしていると時間を忘れて没頭してしまいますね」(Kenchangさん)

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