トヨタ「クラウン」15代続く国内専用車の本質 使い勝手や耐久性、ローカルな価値がある

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アスリートほど明確に車種を二分するわけではないが、クラウンは2代目の1965年に、直列6気筒エンジンにツインキャブレターを装備し、フロントディスクブレーキ、フロアシフト、エンジン回転計を備えたクラウンSというスポーツ仕様を設定している。その2年前に三重県鈴鹿サーキットで開催された第1回日本グランプリレースに、トヨタは早くから関心を寄せ、準備を整えてクラウンを優勝させていた。ちなみに、コロナは1~3位、パブリカが1~7位を占め、トヨタが出場3クラスを制覇している。

3代目のクラウンでは、SLを2代目のSに替えて登場させ、スポーツ志向を象徴するSLは、その後コロナやカローラ/スプリンターにも設定されることになる。

以上のようにトヨタは、クラウンも含め、つねにスポーツ志向を採り入れてきたメーカーでもある。

信頼耐久性にも目を配る開発を続けている

クラウンは、高級車としての上質さや、顧客重視の開発、またスポーツ志向といった付加価値の創出にとどまらず、実用車としての信頼耐久性にも目を配る開発を続けている。それを象徴するのが、初代から続くハイヤーやタクシーでの活躍だ。

自家用乗用車は、消費財である。一方の業務用(タクシーやハイヤー)となると生産財であり、価値を異にする。生産財は、なにより原価に厳しく、運用や管理といった維持費を抑える視点が不可欠であり、信頼耐久性も問われる。たとえばタクシーに使われる車種は、ドアの開閉試験を自家用に比べ厳しく行っている。

タクシー車両としては、1995年にトヨタ「コンフォート」やトヨタ「クラウンコンフォート」が登場したことにより、法人はそれらへ移行したが、個人タクシーではクラウンがなお好まれ、信頼耐久性は保持されているはずだ。個人タクシーのドライバーに尋ねると、クラウンは30万~40万kmを平気で使えるという。別のある法人タクシーのドライバーは、頑張って働きクラウンで個人タクシーをやるのが目標だと私に熱く語った。

維持費の安さや信頼耐久性は、自家用の個人オーナーにとっても利点につながる。

実はメルセデス・ベンツも、ドイツでは「Eクラス」がタクシーとして多く利用されている。ドイツは日本と違い、ほとんどが個人タクシーだ。したがって車種選びでは信頼耐久性や維持費が厳しく吟味される。耐久性が高ければ走行距離が伸びても性能や快適性が長く保持され、買い替え頻度も下がり、高額の代金を支払っても価値は長く持続される。

顧客満足度にはさまざまな視点がある。なかでもその国でもっとも使いやすく便利な性能や仕様であることが重要だ。すなわちローカルな価値をいかに創出するかである。今日、世界的に新車が登場するたびに車体寸法は大きくなっている。それは、多くの車種がアメリカ市場を意識しているからだ。同時にそれは、今後の成長が望まれる中国市場においても同様だ。

しかし、日本でもっとも扱いやすく便利で、なおかつ上質な走りを実感できるクルマは国内専用に限る。にもかかわらず、多くの車種でグローバルな価値が目指されている。スマートフォンやコンピュータのように通信で世界とつながることが重要な商品はグローバル性が必要だろう。だが、クルマや家は、ローカル仕様でないと運転しにくく住みにくいはずだ。

私は、要素部品においてグローバルはあっても、商品性におけるグローバルカーはないと考えている。クラウンは国内専用であることを貫き続け、試行錯誤しながら日本人のための最上級車として世代を重ねている。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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