“無名”からドラフト1位候補に出世した男 富士重工、東明大貴のシンデレラストーリー

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思わぬ落とし穴

周囲と比べ、東明が抜きん出ていたのは積極性だ。とにかく走る量が多く、中長距離走では必ず1番で帰ってくる。

「ずっと1番でいるのが、最もツラいんですよ。後輩にも、『1番になった人が簡単に崩れ落ちるチームは、絶対に強くならないぞ』と話していました。『走ることでも何でもいいから、1番になったらどんな状況でもつねに1位でいろ』って。『ランニングでは絶対に1位で帰ってくる』と、周りに見せつけるような気持ちでした」

順調に成長した東明は3年春、10戦7勝の活躍でMVPに輝き、チームを神奈川大学リーグ優勝に導く。しかし、思わぬ落とし穴が待っていた。右肩を負傷し、秋のリーグ戦は2試合の登板に終わる。落ち込む東明を見て、齊藤監督が声をかけた。

「ケガをしたことをマイナスにとらえてはダメだ。ケガをしたら、もう1回強くなれるチャンス。今より強くなって帰ってこい」

齊藤の指導を受けた4年間で、東明の脳裏に最も刻み込まれた言葉だ。マイナスの状況を乗り越えるには、プラスの発想に切り替えたほうがいい。ピンチはチャンス。投げられない葛藤を乗り越えたことで、東明は一回り大きくなった。

「きつい状況になっても、『まだ大丈夫』と心の余裕を持てるようになりました。昔はマウンドで、テンパることがあったんですね。そういう様子を見せはしないけど、確かにありました。ケガをしてからは、もっと落ち着いて投げられるようになりましたね」

東明にとって、忘れられない試合がある。3年春に出場した全日本大学選手権の2回戦、慶応大学戦だ。福谷浩司(現・中日)と投げ合い7回1死までノーヒットノーランを続けたが、2死満塁から死球を与えて1対1の同点に。9回裏、2死2塁から外角目がけたストレートが甘く入り、レフトにサヨナラヒットを打たれた。

「投げたボールのコース、打たれたバッター、打球の行方。いまだに頭から離れません。その悔しさを糧に、とはなっていますけど……、慶応戦を忘れることはないですね」

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