イオン、「抜擢人事」に透けるEC戦略の焦り EC関連ベンチャーに出資も、具体策は見えず

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こうした積極投資によって、2016年度に575億円に過ぎなかったEC売上高を、中期計画の最終年度である2020年度には1.2兆円に引き上げる構えだ。会社全体では10兆円の売り上げを目指しており、計画通り進捗すればグループ全体の売り上げに占めるECの割合は0.7%から12%に拡大することになる。

デジタル戦略の詳細は語らず

2018年2月期は売上高に相当する営業収益が8兆3900億円(前期比2.2%増)、営業利益が2102億円(同13.8%増)と、増収増益で着地した。だが、その内訳を見ると収益構造の偏りが浮かび上がる。 

昨年12月に中期経営計画の説明会を開いたイオン。岡田元也社長は「彼らのやっていることに追いつかなければならない」と、アマゾンの名を何度も挙げ、危機感をあらわにした(撮影:尾形文繁)

実際、営業利益の6割近くを稼いだのは銀行業などの総合金融事業や不動産開発事業だ。対して、主力のGMS(総合スーパー)事業は営業利益105億円(前期は13億円の赤字)と改善傾向にあるものの、全体の営業利益に占める割合は5%以下にとどまる。この主力事業の収益性の低さが足かせとなり、グループ全体の営業利益率も2.5%と水準は低い。

イオンは長年の経営課題である収益力向上にむけ、GMSの立て直しやデジタル事業の軌道化を急いでいる。ただ、PB(プライベートブランド)の拡充や、戦略的値下げによる顧客1人当たりの買い上げ点数の増加など具体策を掲げるGMS事業とは対照的に、デジタル事業については新たに「デジタル事業担当」という執行役員を設けたものの、具体策は見えてこない。

楽天市場のようにさまざまな事業者が出店するECのマーケットプレイス運営への参画を標榜しているが、「今年度中にきちっとしたものを立ち上げたい」(若生信弥副社長)との説明にとどまり、詳細は語らない。取りざたされるソフトバンクやヤフーとの連携についても、現時点で具体的な言及はない。

岡田社長は「お客様の変化は非常に激しい。よほど心して取り組んでいかなければならないだろう」と危機感をあらわにする。2020年度に営業利益3400億円を目指すが、もくろみ通りに進捗するか。その道のりが険しいことは間違いない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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