年金基金への過剰接待、監視委が摘発強化 年金基金のコンプライアンスは大丈夫か?

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10月11日、証券取引委員等監視委員会が年金基金のコンプライアンスに対する監視や摘発を強化している。写真は都内で2月撮影(2013年 ロイター/Shohei Miyano)

[札幌 11日 ロイター] - 顧客の年金資産1000億円以上を消失させた2012年のAIJ投資顧問事件を機に、証券取引委員等監視委員会が年金基金のコンプライアンス(法令遵守)に対する監視や摘発を強化している。

年金基金の健全な運用は、株式などへのリスクマネー流入を促し、企業の成長を後押ししようという安倍政権の産業政策にとっても重要な役割を持つ。法令遵守や受託者責任を十分に果たしている年金基金はいまだに少数との見方がある中、刑事告発も含めた規制当局の厳しい対応が広がる可能性がある。

監視委が摘発を狙っている年金基金の問題点の一つは、証券会社や投資顧問会社との不透明な癒着関係だ。AIJのケースでは、虚偽の運用成績を顧客に報告して受託資産を集めるという「詐欺」行為がクローズアップされたが、金融庁や監視委は、投資顧問や信託銀行などの運用受託機関と年金基金との間の癒着にも着目した。就労者の年金を預かる受託者責任を持ちながら、年金基金の従事者には法令遵守の意識が低い、との懸念があるためだ。

年金基金の関係者はみなし公務員にあたるため、民間から接待を受けた場合、収賄罪に問われる可能性がある。一方、民間から利益を提供する行為は金融商品取引業などに関する内閣府令が定める禁止事項にも抵触しかねない。

今年6月20日、監視委事務局長(当時)の岳野万里夫氏は投資顧問業協会で行った講演で、みなし公務員に対する接待交際費の支出について、法令遵守の状況を検証するよう強調。接待を行えばその内容次第で金商法に抵触するだけでなく、贈収賄事件として立件される恐れもあると警告した。

多額の接待を当然視

その1週間後、捜査当局は北海道石油業厚生年金基金と投資顧問会社のケートス・キャピタル・パートナーズ(東京都)の贈収賄事件を摘発した。札幌地方裁判所は今月10日の判決公判で、同基金の元理事長、高浜一義被告に懲役1年6カ月(執行猶予3年、追徴金250万円)を言い渡すともに、ケートスの元社長、時岡慎被告に懲役1年(執行猶予3年)、営業担当の菊原誠志被告に懲役10カ月(執行猶予3年)の判決を下した。これに先立ち、ケートスは金融庁から一部業務停止の命令を受けている。

判決によると、高浜被告は、基金による別の資産運用会社との委託契約を解除し、約34億円の運用をケートスに委託。その謝礼とその後の契約継続などへの見返りと知りながら、2010年11月18日、札幌グランドホテルのラウンジ「MIZAR(ミザール)」で、ケートスから現金250万円を受け取った。

検察や監視委によると、ケートス側は札幌・すすきのの高級クラブ「ゴッドファーザー」(札幌市中央区)に高浜被告ら年金基金の幹部を招きホステスや高級酒に囲まれた酒宴を頻繁に開催。あわせて50数回、金額にして260万円相当の接待を行ったという実態も明らかになった。

「(現金は)これまでの謝礼であり、これからもよろしくという意味と思った」──。今年9月、贈収賄容疑に問われていた第一回公判で高浜被告は受け取った現金について、こう釈明し、自ら法令遵守が欠如していたことを認めた。

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